2018 Fiscal Year Research-status Report
教育の私的供給・公的供給下における政府の教育制度設計と人的資本蓄積
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17K03762
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
柳原 光芳 名古屋大学, 経済学研究科, 教授 (80298504)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 人的資本蓄積 / 親の教育に対する態度 / 異質な地域 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は,教育が私的・公的に混合された形で市場で供給されている下で,政府がどのような形で教育制度を構築することが望ましいかについて分析を行うことを目的とするものである。平成30年度においては,教育の出し手を考慮した人的資本蓄積メカニズムの描写をすることを研究計画としていた。本年度の研究実績については,以下の2つを挙げることができる。 まず,教育に関係する研究として,Shinozaki, Kato, and Yanagihara ”Economic growth and parental aspiration for children’s human capital”を,2018年9月に中国中山大学で行われた中山大学嶺南学院・名古屋大学大学院経済学研究科連合会議で報告を行った。これは家計において親の世代が子の教育により熱心になればなるほど,経済成長に対してはむしろ負の効果を有し,「貧困の罠」を生じさせる可能性があることを指摘している。この論文は教育(支出)の出し手である親世代の教育に対する姿勢が人的資本蓄積にどのように影響を与えるかについて見ているものであり,本研究の目的に沿ったものであるといえる。 次に,異なる地域の存在を考慮した研究として,Shinozaki, Tawada and Yanagihara ”International trade and capital accumulation in an overlapping generations model with a public intermediate good”がReview of International Economics誌にearly viewとして掲載された。これは基本的には国際貿易の動学理論のモデルであるが,2地域が組み込まれているという点では地域の異質性を含みうる研究であるといえる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成30年度の目標は,教育の出し手を考慮した人的資本蓄積メカニズムの描写をするところにあった。標準的な人的資本蓄積を扱う動学モデルとは異なり,Shinozaki, Kato, and Yanagihara ”Economic growth and parental aspiration for children’s human capital”では,家計の中での教育の出し手を考慮し,その出し手の教育に対する考え方が長期的にどのように経済成長に影響を与えるかについて示されている。また,本論文を前者については,中国中山大学嶺南学院と名古屋大学との連合会議で,中国の研究者から得ることのできた示唆が,今後の本研究の発展へとつなげることができるものと考えられる。 また,Shinozaki, Tawada and Yanagihara ”International trade and capital accumulation in an overlapping generations model with a public intermediate good”では,人的資本蓄積メカニズムが考慮されていはいないものの,2地域が明示的に導入されていることから,次年度以降の財政外部性の議論への橋渡し的なものと位置づけられる。このような形で,この論文はも本研究の発展自体に資するものと考えることができる。 ただ,教育の出し手の議論は,昨年度においては1種類を取りあげただけにとどまっており,今年度も引き続き議論を続けていくことが望まれる。また,昨年度に予定していた教員の聞き取り調査についても実行できなかったことから,今年度は何らかの形で実行することをめざす。 以上のことから,現在までの進捗状況は,予定を上回るものとはいえないものの,おおむね計画通りであるということができる。
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Strategy for Future Research Activity |
上で述べたように,平成30年度においては,教育の出し手を考慮した人的資本蓄積メカニズムの研究を行ってきた。しかし,その出し手に関する十分な議論ができていないことから,今年度も引き続き,別の角度から教育の出し手を取りあげるモデルの構築を図る。その際,先行研究の整理を行っていくとともに,教育経済学,経済成長理論を専門とする研究者にとどまらず,財政学,地方財政理論を専門とする研究者にも広く意見を求めていく。そのようにして理論モデルの精緻化を図り,学会や研究会などにおいて積極的に発表していく。 また,昨年度実施できなかった教員への聞き取り調査を,今年度は何らかの形で行い,より現実の状況を反映した人的資本蓄積のモデルの構築をめざす。 このような形で人的資本蓄積メカニズムの描写を適切なものとした上で,そこに地方財政理論に関する研究,特に財政の垂直的外部性を導入し,教育に対する中央政府,地方政府のありかた,そしてそこへの家計(私教育)のあり方について,静学的観点に加えて動学的観点からも接近を試みる。 これらの研究から得られる成果については,今年度に関しては学会や研究会での報告もさることながら,学術雑誌への投稿へ特に重点を置いて行っていくことを考えている。そこで得られた知見および成果については,社会への発信を可能な限り試み,教育,人的資本蓄積に対する中央政府,地方政府のあるべき姿について提言を行っていく。
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Research Products
(8 results)