2019 Fiscal Year Research-status Report
教育の私的供給・公的供給下における政府の教育制度設計と人的資本蓄積
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17K03762
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
柳原 光芳 名古屋大学, 経済学研究科, 教授 (80298504)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 公共財の外部性 / 水平的競争 / 垂直的競争 / ふるさと納税 / 資本蓄積 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は,教育が私的・公的に混合された形で市場で供給されている下で,政府がどのような形で教育制度を構築することが望ましいかについて,静学的観点と動学的観点から分析を行うことを目的とするものである。平成31年度(令和元年度)においては,教育の外部性として知られた同僚効果に関する既存研究と,財政の垂直的外部性に関する既存研究についての概観と,その整理を行うこととしていた。 本年度の研究実績については,上記の計画を実施するための準備に関わり,以下の2つのものを挙げることができる。 まず,財政の外部性に関して,”International trade and capital accumulation in an overlapping generations model with a public intermediate good” (Shinozaki, T., Tawada, M. and M. Yanagihara)をReview of International Economics誌において発表した。これは公的中間財(公共財)が民間企業の生産活動に対して正の外部性を与える状況において,2つの地域が貿易を行うことで,資本蓄積がどのように進展するかについて分析を行ったものである。この研究では各地域が独立して公共財供給を行っているため,いわゆる財政の外部性の問題の前段階の研究としての位置づけとなっている。 次に,「『ふるさと納税』の理論」(加藤・柳原)を,日本地域学会の年次大会において発表した。この研究では,地方政府間の租税競争(水平的競争)を行っている状況で,「ふるさと納税」を通じて中央政府の存在を仮定することで,財政の垂直的外部性の生じ方について言及を行っている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成31年度(令和元年度)においては,教育の外部性として知られた同僚効果に関する既存研究と,財政の垂直的外部性に関する既存研究についての概観と,その整理を行うこととしていた。これにより,当初はそれぞれの外部性について体系的にまとめたうえで,それらの融合をどのように図ることができるかを検討するところまで行うことを目標としていた。 この当初の目標である先行研究の整理については,未だ完成には至っていない。むしろ,その途上で財政の垂直的外部性のありかたについて描写を試み,上に挙げた「『ふるさと納税』の理論」の学会報告を行うことを優先した。したがって,財政の垂直的外部性に関する研究については,おおむね計画通りであると判断される。 しかし,教育の外部性である同僚効果についての先行研究の整理については,十分な進展を見せておらず,また,それに関するアウトプットもいまのところ出ていない。 以上のことから,現在までの進捗状況は,前者の研究についてはおおむね計画通りであるということができるものの,全体としてはやや遅れていると判断せざるを得ない。
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Strategy for Future Research Activity |
上で述べたように,平成31年度(令和元年度)においては,公共財の外部性に関する研究を行うとともに,地域間の水平的競争から財政の垂直的外部性が生じる理論的枠組みの提示を行ってきた。今年度は,昨年度に十分な研究の進展ができなかった,教育の外部性に関する先行研究の整理をまず行い,その上で財政の垂直的外部性を組み入れた,最終年度に完成させるべき,二種類のモデルの統合を図っていく。 また,余裕がある場合には,教育市場の混合寡占理論を簡単な形であれ提示することを目指すとともに,それを上の2つの枠組みへの導入を図り,より現実を反映した理論モデルの構築を目指す。 今年度も,昨年度同様に学会報告をできるかぎり行い,地方財政理論を専門とする研究者の方々から広く助言を得ていく。そのような形で研究をより精緻なものとして,学術雑誌への投稿へも視野に入れていく。それと同時に,研究で得られた知見については,何らかの手段により社会への発信を試みたい。
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