2017 Fiscal Year Research-status Report
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17K03772
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
寺井 公子 慶應義塾大学, 経済学部(三田), 教授 (80350213)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 予算編成過程 / 公共事業 / プリンシパル・エージェント問題 / 私的流用 / シーリング / 財政制約 |
Outline of Annual Research Achievements |
予算を配分する主体をプリンシパル、予算の各プログラムへの使用をプリンシパルから委任される主体をエージェントと見なし、プリンシパルによる予算配分が2期にわたる予算編成過程を描写する理論モデルを構築した。このようなプリンシパル・エージェントモデルを用いて、ある期のエージェントの戦略的行動が、プリンシパルの時間を通じた予算配分にどのような影響を与えるのか、またそのことを予想するエージェントの行動は、どのような影響を受けるのか、という、ダイナミックなプリンシパルとエージェントとの戦略的相互依存関係を分析した。特に、エージェントが両期間の予算を公共事業のような生産活動に投入するような状況を想定し、エージェント(関係省庁、関係する部署、あるいは建設会社)の戦略が予算を有効に使用するための努力水準である場合と、予算の1部の私的流用である場合のそれぞれについて、エージェントがプリンシパル(地域住民、あるいは政治家)の効用を最大化するような行動をとるのはどのような場合か、そのとき、効率的な投資は行われるのか、結局のところ、予算総額は拡大するのか、といった点について、分析を行った。 そのうえで、1期目の予算(わが国の予算編成過程を例にとれば、当初予算が該当する)ではなく、2期目の予算(補正予算が該当する)、あるいは1期と2期の予算の総額にシーリングを課すことが、財政規律の維持に寄与するだけでなく、予算執行におけるエージェントの努力、あるいは私的流用の抑制を促すインセンティブとなり、そのようなエージェントの行動を想定して、プリンシパルによる望ましい予算配分、効率的な投資水準が実現されることを示した。このような分析により、シーリングという財政制約は、財政規律、予算の効率的使用を促進するよう、プリンシパル自らの行動を拘束することができる点で優れていることが示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初めに、エージェントが予算の一部を、自らの利益のために流用できることを表現する理論モデルを構築し、その後、エージェントの戦略を努力水準として、不完備契約を前提とする過去の文献と比較可能なモデルに拡張した。いずれのモデルも、2期間のうちの第1期において、プリンシパルの予算額決定に続いて、エージェントが予算の一部を利益団体への便宜供与に使用したり、自らの消費活動に充てたり、努力水準を選択したりするなど、第2期のプリンシパルの行動を予想しながら自らの利益を最大化するように行動し、残った予算を生産に寄与する使途に支出する。 初めに、最小限の仮定を置いた一般的な関数形に基づく考察を行った後で、生産関数を2期間の投資が代替的あるいは補完的である場合を表現できるように特定し、比較静学を行った。たとえば第1期と第2期の投資が補完的である場合、エージェントによる第1期の投資が、第2期の投資の限界生産性を増大させることで、プリンシパルに第2期の予算額を増やすように働く。一方、産出の増大によってプリンシパルの限界効用が逓減するので、第2期の予算額を減らす効果も持つ。どちらの効果が強いかは、生産関数、効用関数の具体的な形状に依存する。特に生産関数の形状に焦点を当て、エージェントの第1期の投資行動が2期の予算、時間を通じた予算配分、産出、私的流用あるいは努力水準にどのような影響を与えるかを考察した。 2期間の投資が十分に補完的な場合には、プリンシパルが望む生産が実現されるが、2期間の投資が十分に代替的な場合には、エージェントがプリンシパルの好まない行動をとることが、かえって第2期の予算の増加につながる。このような結果から、第2期予算へのシーリングが効果的に機能するのは、道路建設など、2期間の投資が代替的な場合であり、シーリングがない場合に比べて、1期目の予算を抑制することができることを示した。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度の理論モデル分析によって得られた結果を、我が国の予算過程に応用し、近年の補正予算の特徴、補正予算にもシーリングを課した場合の効果について考察する。Besfamille and Lockwood (2008)は、予算制約のハード化が、エージェントによる過小投資を招く可能性を指摘した。予算の拡大を防ぐためのコミットメントが、実際に有効に機能するかどうかについては、現実に基づく細やかな検証が必要である。そこで、平成30年度前半は、我が国の公共事業関係費に注目して検証を行う。公共事業関係費については、他の予算とは別枠で、圧縮が行われてきた。景気刺激策としての公共事業の効果が、かつてに比べて大きく低下したこと、また需要を過大に予測して実行された公共事業が、建設業界などの利益団体への便宜供与に当たるとする批判が高まったことを受けての措置であるが、公共事業関係費の圧縮が、政府関係者の私的流用を阻止するにとどまらず、望ましい投資水準からのかい離をもたらし、成長を阻害する可能性があることも否定できない。補正予算も含めたより厳格なシーリング設定によって、自然災害などによって突然に発生する財政需要に適切に対処できるのか、当初予算も含めた予算構造が硬直的にならないか、といった点に特に注目しながら、分析を進める。 また、エージェントを政府の支出官庁ではなく、建設会社と見なせば、建設会社どうしの競争の導入によって、公共事業関係費の非効率な使用を抑制できるかもしれない。また、連邦制度の文脈に従って解釈すれば、中央政府をプリンシパル、地方政府をエージェントと見なすことができる。地方政府が複数存在する場合、地域間競争の促進と、公共事業のような生産活動について、新たな示唆が得られるかもしれない。平成30年度後半は、複数のエージェントによる競争を導入し、理論モデルの拡張を図る。
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Causes of Carryover |
公共経済学関係図書の購入、国内研究会参加に必要な国内旅費を、他の研究費から支出することができたため、次年度使用額101,408円が生じた。平成30年度は、当初の直接経費700,000円に次年度使用額を加えた801,408円が使用できることになるが、当初予定していた国際学会参加1回に加えて、新たに海外で開催される研究会に出席することになったので、次年度使用額を外国旅費の追加分に充てる予定である。
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