2017 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
17K03789
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Research Institution | Setsunan University |
Principal Investigator |
名方 佳寿子 摂南大学, 経済学部, 准教授 (70611044)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 構造推定法 / 租税競争 / 税源移譲 / 消費税 |
Outline of Annual Research Achievements |
現在日本では少子高齢化、都市部への人口・企業の集中が進み、地域間格差が拡大している。この地域間格差を是正し地方からの経済活性化を図るには、地方政府に歳出削減と安定した税収の確保などの自助努力を促す税源移譲が必要と考えられている。しかし、税源移譲は租税競争という弊害をもたらす可能性があるため、どの税項目を地方に移譲するかが非常に重要な課題となる。 政府間租税競争や税源移譲問題についてこれまで多くの研究がなされているが、(1)消費者・企業や地方政府の目的や行動を明確にしないまま分析していたため、租税競争が生じるメカニズムが解明されていない(2)税源移譲後政府が税率を変更した場合、消費者や企業の行動が変化することが考慮されていない(3)租税競争の影響を受ける消費者・企業にとって重要な社会経済変数が推計に十分に考慮されていない等の問題があった。 本稿は地方政府(都道府県)に消費税の一部の税源と課税自主権を移譲した場合、租税競争が生じるか、また社会厚生が改善されるかを分析することを目的としている。その際、従来の分析手法と異なり、消費者の効用関数と地方政府の目的関数を構築・推計するという構造推定法を用いることによって従来の分析手法の問題点の解決を試みている。 29年度の目標は地方政府の目的関数の構築と実証研究に必要となるデータの収集であった。複数の先行研究を読み、社会厚生の最大化を図るBenevolentな政府の目的関数と自分達の利益の最大化を図るLeviathanな政府の目的関数の構築を行った。2つの目的関数を比較したところ、Leviathanな政府は消費者の厚生を考慮しないので、租税の弾力性が大きくなることや私的財と公共財との間のweight関数を測定する必要がないことが分かった。データに関しては現時点で必要と考えるデータについてはほぼ収集済みである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究の進捗状況がやや遅れている理由は2つ挙げられます。第1に2016年10月に出産し、2017年4月に産後5か月で復職しました。まだ子供が非常に幼い上に保育園という新しい環境で頻繁に熱を出すなど病気になり、入院することもありました。主人は激務でかつ両親・義両親も遠方で頼れず、ほぼ一人で育児・看病を行わなければなりませんでした。そのため私自身も体調を崩すことが何度もあり、研究の時間を確保することが非常に困難でした。第2に、こちらの研究だけではなく、他に複数の研究を同時に行っており、締め切りや共同研究者の都合の関係でそちらの研究を優先する必要があり、こちらの研究に割く時間を確保することが難しい状態でした。
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Strategy for Future Research Activity |
まず地方政府(都道府県)の目的関数を推計し、税率の決定の仕方を明確化する。構築したBenevolentな政府の場合のモデルとLeviathanな政府な場合のモデルの2つを日本のデータを用いて推計する。その推計において、日本のデータのあてはまり度合いが高いモデルを採用する。政府の目的関数が定まると、その目的関数を税率で一階微分した条件式は理論上ゼロに近い値をとるはずである。この一階の条件式をモーメント条件とするGMM法によって地方政府の目的関数のパラメータを推計する。 次に、都道府県の政府間で租税競争が生じるか分析する。地方政府(都道府県)の目的関数が推計された後、そのモデルを使って、都道府県政府間で租税競争が生じるかどうかを分析する。具体的には、近隣の地方政府(都道府県)が税率を変更した場合、地方政府が自分達の税率をどのように変更するかという反応関数の傾きを計算し、租税競争の有無を吟味する。 最後に税源移譲後の消費税率・税収の地域間格差や住民の厚生の変化等を計算する。推計した地方政府の目的関数から均衡における消費税率を求める。次に推計された住民の効用関数から各都道府県の消費額を求め、税率とかけあわせることによって税源移譲後の税収額が計算される。また住民の効用関数から社会厚生関数の推計ができるため、税源移譲前と後での厚生の変化を計算し、税源移譲によって社会厚生が改善されたかどうかを判別することができる。さらに、もし地方政府(都道府県)がBenevolentな政府である場合、消費税の増収分は社会保障費に用いられるため、人口、高齢者の割合、生活保護、失業率などの予測値があれば、社会保障費の予測とそれに伴って必要となる消費税収や税率を計測することができる。
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Causes of Carryover |
平成29年度は海外出張、データの購入、ノートパソコンやその他パソコン関連の物品費などを見込んでおりました。しかしながら、産休明けの育児で多忙であったため、海外出張には参れず代わりに日本で開催された国際学会に参加しました。それに関連してノートパソコンの購入を見合わせました。またデータに関しては、幸いなことに大学の方で日経Needsのデータを購入することとなり、科研費を使う必要がなくなりました。その結果使途は主に備品や国内出張だけにとどまりました。 平成30年度は最低2つの学会に参ることを予定しております。まず初夏にカナダで行われる国際学会に参る予定にしています。また秋に日本で開催される学会でも発表する予定で、あわせて出張費40万近く見込んでおります。それに関連してノートパソコンや計量分析に用いるソフト(Stata15等)も購入する予定です。パソコン関連の物品を含めておよそ60万の支出を見込んでいます。その他、必要に応じて参考図書などの購入をしていく予定です。
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