2018 Fiscal Year Research-status Report
Empirical analysis of coporate investments and divestitures
Project/Area Number |
17K03799
|
Research Institution | Mie University |
Principal Investigator |
嶋 恵一 三重大学, 人文学部, 教授 (90281914)
|
Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
Keywords | 設備投資 / リアルオプション / オーバーコンフィデンス / 認知バイアス / 保守的会計 / 情報の非対称性 / エージェンシーコスト / 投資の効率性 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は設備投資行動の解明である。投資に含まれるリアルオプションや、財・資本市場の影響などのファイナンス分野の近年の研究を考慮して投資のミクロ的基礎付けを再度模索し、従来の設備投資の推定方程式の改良につながる検討を進め、より精度の高い推定結果を提示することが目的である。 前年度に設備投資のミクロ理論を見直し再定義する理論研究やその関連の実証結果のレビューを進めた結果、当初の分析計画では不完全競争下のリアルオプションを投資の最適化の主たるモデルとして考えていたが、ファイナンス並びに会計学の分野から、企業の経営陣の属性、採用する会計方針が設備投資量に大きなバイアスを与えうることが強く指摘されてきており、その研究報告は国際的に大きな増加傾向にあることが判明した。 近年のファイナンス・会計学分野の理論及び実証研究では、企業の投資プロジェクトが生む収益に対する予想に経営陣の認知バイアス(overconfidence)が存在する場合、それは企業価値最大化の観点からみて非効率な投資を導き、また肯定的な収益情報と否定的な同情報とを非対称に扱う保守的会計方針(Conservative accounting, Timelyloss recognition)により、投資の効率が逆に改善することを主張する。ミクロデータによるその実証分析は国際的に増加しており、多くの先行研究からそれが設備投資と撤退に及ぼす影響が確認される。前年度は、リアルオプションに加え、経営陣の認知バイアスと会計方針選択とを本分析に導入し、投資行動の実証研究を行った。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究実績の概要に記載した通り、前年度に本研究に関連する設備投資の理論研究と実証結果のレビューにより、企業の経営陣の属性、採用する会計方針が設備投資量に大きなバイアスを与えることを指摘する研究が欧米を中心に急速に増加していることが判明した。多数の先行研究において、企業の経営陣がその投資収益の予想にバイアスを持つ場合、それは企業価値最大化を損なう非効率な投資を導く可能性を生み、その逆に、企業が投資の実現収益に関する肯定情報と否定情報とを非対称に扱う保守的会計方針を採用する場合、それは投資の効率性を改善させる効果を持つという主張を確認できる。 本年度の研究では日本の上場企業の財務データ、経営陣の特性データなど必要なミクロデータを用意して、現段階では設備投資に絞り、その効率性に関する実証分析を行った。以上の通り、先行研究のレビューから十分な成果を得たとともに実証分析では良好な結果を得ており、本研究は概ね順調に進んでいる。 具体的には、前年度に日本政策銀行『企業財務データバンク』(上場企業有価証券報告書財務データを数値ファイルにしたCDROM)を購入し、実証分析作業を開始した。ただし、経営陣の認知バイアスを表す指標として、本分析では決算短信などの業績予想データを利用する必要があり、そのデータの入手を日本政策投資銀行設備投資研究所の中村純一氏に依頼し、中村氏との共同研究名義で論文を執筆した。執筆論文は日本金融学会での報告とSSRNへの掲載を済ませ、現在、国際ジャーナル誌への投稿を準備中である。
|
Strategy for Future Research Activity |
上述の通り、企業のミクロデータによる設備投資の実証研究について、企業の経営陣の属性、採用する会計方針が設備投資量に大きなバイアスを与えることが先行論文では指摘されており、その研究報告は国際的に大きな増加傾向にある。具体的には、企業の経営陣がその投資収益の予想にバイアスを持つ場合、それは企業価値最大化を損なう非効率な投資を導きうるとともに、また他方では、企業が投資の実現収益に関する肯定情報と否定情報とを非対称に扱う保守的会計方針を採用するなど会計方針の選択によって投資の効率性が改善する可能性が近年主張されてきた。特に経営陣の認知バイアスはリアルオプションの行使に影響しうると予見できる。以上の点は当初の研究計画では捉えていなかった特性であり、新たな研究テーマとして導入し研究計画を修正した。 本研究では、以上の国際的な研究動向に着目し、リアルオプションによる効果とともに、経営陣の特性、会計方針の選択が設備投資と撤退に与える効果の実証分析を進めてゆく。今年度の実証研究では設備投資に絞ったミクロ分析を行い、国際査読誌への投稿作業へと進めたが、次年度はリアルオプション効果、経営属性、そして会計方針選択の影響を考慮した投資効率の問題に焦点を当て、撤退に関する実証分析モデルとそれに必要なデータの調査を進めてゆく。
|
Causes of Carryover |
論文投稿のための英文校正費、投稿料金などを本年度に使用せず、翌年度に繰り越したため。次年度に英文校正、投稿料として使用する。
|
Research Products
(2 results)