2018 Fiscal Year Research-status Report
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17K03805
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Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
西垣 鳴人 岡山大学, 社会文化科学研究科, 教授 (40283387)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | マイクロクレジット / アウトリーチ / 金利の費用構造 / 逆選択 / 共謀 / ゲーム理論 |
Outline of Annual Research Achievements |
29年(初年)度までに得た知見は,1)コスト要因等による金利上昇に合わせて何らかのペナルティ水準の引上げがなければ,他の条件を一定としてモラルハザードの危険が高まる,2)他の条件が一定であれば,金利上昇にともなってマイクロファイナンスにおけるグループ貸付の逆選択緩和効果が低下する,3)金利上昇は調達資金及び事業者サスティナビリティの観点から貧困緩和にプラスに働く半面,借り手のコスト負担からはマイナスに働くため,貧困緩和に対するインパクトを最大にする最適金利が存在し得る――以上だった。 30年度における主要実績は,以上1)~3)を一つの理論モデルに統合したことである。当該モデル分析によって導かれた結論は,顧客数伸長を目的として金利を上昇させるとエージェンシー問題がないときに比べてより多くの費用を顧客に負担させる。そしてこの費用負担が「新タイプの逆選択」を生み,マイクロクレジット機関(MFIs)の期待形成における不確実性が増大し,システム不安を招く危険性が増す――ということである。 さらに当該モデルに基づいた事例分析から,以下の政策的含意が得られた。すなわち,営利目的を持ったMFIsにおいても金融包摂の役割を果たすことには意義があり,また正反対のスタンスである無利息・低利融資が顧客の貧困脱却に役立つことにも意義はある。しかし一地域においてMFIsスタンスの分布が偏っていることはシステム安定化や総合的貧困緩和インパクトの観点から望ましくない。様々な顧客ニーズに対応する多様なスタンスのMFIsが満遍なく分布するシステムの実現が目指されるべきである。 以上の分析結果と政策的含意を検証する目的で,わが国マイクロファイナンス事業者に関するフィールド調査を開始し,これまでに得た分析結果や政策的含意の正当性が実証される方向で研究は進展してきている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初計画において,理論モデルを確立し実証分析を行おうとしていたのは,上記「研究実績の概要」における知見1)および2)までであり,モデル分析に関しては29年度中に当初の計画以上に進展し,30年度はさらに大きく進展した。しかし実証に関しては,理論分析が大きく前進した分,30年度には新たに分析方法を考え直す必要が生じ,年度末にデータ収集と解析を開始したばかりである。 論文執筆について,30年度中に英文DPを一本,その理論体系を発展させた和文DPを一本仕上げ,いずれの内容についても各一回国内学会において報告を行った。しかし計画していた海外ジャーナルへの投稿は準備段階であり,海外における報告も未実現である。 以上から総合的に判断し区分(2)とした。
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Strategy for Future Research Activity |
31年度は国内を中心にフィールド研究とその他データ収集を通じて,理論分析の結果および政策的インプリケーションに関する実証研究を進める。 一方で30年度における和文DPをブラッシュアップした英論文の海外ジャーナル投稿を目指す。また日本国内における実証研究の成果を反映させた英論文の執筆も同時並行で進める。
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Causes of Carryover |
勤務大学の異動に伴って自宅と研究室の引越作業に時間を要することになったため,年度終盤に予定していた海外における調査および研究報告を見送った。これを国内マイクロファイナンス機関の調査に代えて研究を進めたが,必要旅費等の差は大きく,記載の次年度使用額が生じる結果となった。 31年度は,30年度に見送った海外活動を実施し,これに当該金額分を使用する。
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