2017 Fiscal Year Research-status Report
The Role of Life Insurance in Small Business Enterprise-Empirical Evidence on Finance Theory-
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17K03817
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Research Institution | Meiji University |
Principal Investigator |
浅井 義裕 明治大学, 商学部, 専任准教授 (60433645)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 中小企業金融 / 保険 / リレーションシップバンキング / デリバティブ / 東日本大震災 / 事業承継 / 生命保険 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成30年度以降に、アンケート調査を実施し、分析を進めていくために、初年度である平成29年度は、中小企業金融と保険の関係を明らかにしようと試みた。具体的には、過去に実施した中小企業金融のアンケート調査の分析を行ってきた。実証的な分析を進める過程で、今後、新たにアンケート調査を実施していく上での重要な示唆が得られた。また、分析の過程で浮かび上がってくる課題、掘り下げて質問することができる項目が明らかになるなど、調査を進めていく準備が整いつつある。 本年度は、2014年2月に実施したアンケート調査(Meiji University, Faculty of Commerce, Discussion Paper No.9.)で得られたデータに基づいて、以下のような分析を進めた。まず、社債の発行や株式の発行など、資金調達の手段が多い大企業と比べて、資金制約に直面することが多いと考えられる中小企業が、生命保険の解約をどのように利用しているのかを明らかにしようと試みた(Meiji University, Faculty of Commerce, Discussion Paper No.6.)。続いて、資金制約だけではなく、オーナー企業であるなど、所有構造が経営者に集中し、所有と経営が未分離な傾向がある中小企業の損害保険の需要の構造についても、明らかにしようとしてきた。さらに、中小企業のリスク管理の実態については、多くのことが明らかになってきていないため、デリバティブ購入の動機(リスク管理目的、投機目的)に注目しつつ、デリバティブを購入している中小企業の特徴について、分析を進めた(Meiji University, Faculty of Commerce, Discussion Paper No.10.)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
おおむね、順調に進捗しているものと考えられる。平成30年度以降に実施するアンケート調査の内容に反映するために、平成29年度は、中小企業金融における保険の役割を明らかにしようと、いくつかの分析を試みてきた。 まず、銀行との関係が密接ではないと考えられる企業ほど、保険需要が大きい傾向があることを発見している。また、銀行との関係が密接ではないと考えられる企業においては、生命保険を解約してでも、赤字を避けようとする傾向があることが確認できた。そして、銀行との関係が密接ではない企業では、デリバティブの購入が行われていること、投機目的とリスクマネジメント目的では、デリバティブを購入する企業の特徴が異なることなど、中小企業金融における保険リスクマネジメントの役割の一端が明らかになってきた。 上記の分析では、損害保険需要、生命保険解約の有無とその理由、そして、デリバティブの購入の有無とその目的の分析などを進めてきたが、これらは、以前に実施したアンケート調査の実施結果に基づいて分析を行っている。平成30年度以降に実施する中小企業向けアンケート調査は、平成29年度の分析の結果を反映し、結果の頑健性を確認するために、銀行との取引年数など、必要になる項目を追加して実施する。また、中小企業金融の事業承継における保険の役割など、新たに調査をする項目を加える。 一方で、平成29年度までの分析で明らかになってきた点は、ソフト情報の不足であろう。そこで、中小企業金融における保険について、中小企業の実態や課題について、聞き取り調査を実施した上で、調査票を作成することが必要となるであろう。次年度以降は、こうした不足も補いながら、アンケート票を作成し、実施する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度以降は、調査票を改良しながら、中小企業金融における保険の役割についての分析を進めていく。例えば、中小企業と銀行の関係については、取引銀行数、メインバンクとの面会頻度、支店との距離、銀行への依存の程度だけではなく、取引年数や取引額などを追加して、分析を行う予定である。また、日本の中小企業における、事業承継の円滑化の重要性を鑑み、事業承継の有無、事業承継計画の有無、事業承継計画・実態についても質問する。その際に、中小企業と担保・個人保証の設定条件の変更などについても、合わせて尋ねる。また、金融機関などによって過去に実施された、事業承継に関する中小企業向けのアンケート調査があるため、これらの先行する調査も反映しながら、調査票を作成する。 中小企業金融分野にとどまらず、学際的な性質を持つアンケート調査となるため、調査票の作成に当たっては、中小企業の事業承継に関する研究者・実務家、リレーションシップバンキング分野の研究者・実務家、保険分野の研究者・実務家に事前に相談をし、慎重に調査票を作成する予定でいる。アンケート調査を委託する信用調査会社からは、中小企業の財務データを購入し、実証的な分析を行うことができるよう環境を整えることも検討している。実施したアンケート調査については、結果を集計し、国内外へ向けて発信する予定でいる。さらに調査の結果について分析を進めて、国内外の学術論文として投稿していくこと、また、これまでの中小企業金融における保険の役割の分析結果をまとめて、書籍として公刊することを計画している。 他にも、さらなる研究の展開に備えて、中小企業金融について、東日本大震災からの復興において保険が果たした役割、復興における保険の役割の限界についても、実証的に明らかにしていく予定である。
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Causes of Carryover |
本年度については、科研費以外の研究費を獲得すること、在外研究という機会を利用することで、書籍などの購入、国際学会での報告費用が大幅に節約できたため、次年度使用額を発生させることができた。 次年度以降使用額については、アンケート調査の実施について、設問項目数を増やす、送付先とする企業数を増やすことで、より信頼のおける結果が得られる調査としたい。また、中小企業の財務データの購入費用に充てることで、分析の結果を充実させていくことを計画している。
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Research Products
(6 results)