2018 Fiscal Year Research-status Report
Debt and its Maturity Structure
Project/Area Number |
17K03819
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
谷川 寧彦 早稲田大学, 商学学術院, 教授 (60163622)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 負債の満期構成 / 負債構成 / パネルデータ分析 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、非金融企業が行う負債での資金調達の構成とその満期構成、具体的には銀行借入、普通社債、転換社債型新株予約権付き社債、コマーシャル・ペーパーといった負債構成とその満期構成の決定要因を明らかにし、その決定において資金価格である金利とその他の非価格要因の役割を識別することにより、金融市場における価格メカニズムの働きとその限界、及び金利にもとづいた金融政策の有効性を評価することを目指している。 本年度は、昨年度作成したデータベースにデータを追加して計量分析を行ない、負債の満期構成の長期化を確認するとともに、その要因が普通社債や転換社債型新株予約権付社債などの市場型債券(以後、短縮して社債等と呼ぶ)発行の増加によるものか否かを検証した。具体的には、まず、満期構成を一年未満かそれ以上かという形で単純化し、社債等や借入金のうち1年以内に返済期限がくる金額が借入金と社債等の合計に占める割合として定義した「短期負債比率」の業種毎の平均値が、調査対象期間の2001~2016年度について多くの産業で減少することを確認した。 社債等発行の効果を見るために、社債等増加を1、それ以外を0とするダミー変数を作成し、これを被説明変数とするパネル・ロジット分析にもとづくその予測値を説明変数に追加して、短期負債比率を被説明変数とするパネル回帰分析を行った。さらに、社債等の有無を示すダミー変数との交差項を説明変数に加えることで、社債等発行企業と銀行借入だけの企業とで短期負債比率に及ぼす説明変数の効果(選択行動)が異なるか否かを検証した。その結果、社債等発行の予測値は短期負債比率に統計的に有意な影響を与えていないが、配当金総額/売上高が増えると社債等発行企業では短期負債比率が下がるのに対し非発行企業では短期負債比率が高まるなど、社債等発行企業か否かで短期負債比率の選択行動が異なるという結果を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
負債構成および負債の満期構成(長期化現象)を説明する理論モデルの開発が遅れているため。 負債は資金調達の一部であることから、資本構成選択行動を説明する理論とも整合的な理論モデル開発が必要である。負債には償還期限が必ずあるのに対し株式には事前に定まった償還期限はなく、負債/株式比率という資本構成は調達資金における満期構成という側面も持つためである。この研究を進めるうち、資本構成の選択については、日本では全17業種(金融を除く)の過半数の産業で負債/資本比率が2006~2007年度をピークとする時系列上の動き(変化)が見られる他、医薬品、自動車、小売業などそうしたピークがなく増加傾向を示す産業もあることが明らかになった。トレードオフ理論やペッキング・オーダー理論などの従来理論では、これをあまりうまく説明できない。負債を始めとした金融サイドだけではなく、産業分類で部分的に集約されている事業特性といった実物サイドも考慮した理論モデルが必要なことが示唆される。本研究の立案時点で想定していなかった点であるため、これを積極的に考慮する方向への対処がやや遅れている。
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Strategy for Future Research Activity |
産業によって資本構成、負債構成、負債の満期構成の選択結果が異なるという発見から、資金需要(資金額、及び返済までに要する期間など)が産業の生産技術や収益構造と関連している可能性が高い。いくつか代表的な事例を選んでこれらを調査し手がかりを得て、この効果の検証を目指して、理論モデル構築とデータ整備を進める。
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Causes of Carryover |
研究初年度に国内外の実務家に対する聞き取り調査を実施できず、本年度も聞き取り調査計画を立案する調査項目の明確化が不十分と考えて聞き取り調査を見送ったことが、研究3年目に次年度使用額が生じた主たる理由である。 当初想定していなかった企業の実物サイドに関するデータの取得とデータベース化が必要となったことが明らかになったので、これらに関する事例研究、聞き取り調査、データ入力作業者への謝金などで次年度使用額を支出する。
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