2017 Fiscal Year Research-status Report
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17K03821
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Research Institution | Nagasaki University |
Principal Investigator |
千野 厚 長崎大学, 経済学部, 准教授 (30647988)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 企業金融 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、2003年の労働者派遣法改正により製造業において急激に増加した派遣雇用が、製造業企業の資本コストおよび財務戦略に与えた影響を推定する。本研究の基礎となる千野(2016)は、製造業の株主資本コストが、非製造業のそれと比較して、国会で労働者派遣法改正が可決された2003年以降に有意に低下したことを示した。しかし、実際に派遣雇用の増加が、製造業企業の資本コストの低下に直接的に影響したか否かは、派遣雇用者数のデータを用いた分析を行っていないので、確証できなかった。 平成29年度は、申請時における研究実施計画に沿った形で、まずこの点を確証する分析を行った。具体的には、経済産業省による企業活動基本調査における、企業レベルおよび業種レベルの派遣雇用者数のデータを入手し、主に業種レベルでの法改正施行(2004年)前後の派遣雇用者数の変化と、各業種における法改正可決(2003年)前後の株主資本コストの変化の間の関係について分析を行った。分析の結果、製造業・非製造業間のみならず、製造業内の業種間の比較においても、特に派遣雇用者が増加した業種に属する企業の株主資本コストが、他の業種の企業のそれと比較して、有意に低下したことが示された。この結果は、製造業企業の株主資本コストが、2003年労働者派遣法改正以降、法改正施行後の派遣雇用の増加を織り込んで低下したという解釈と整合的である。 これら派遣労働者のデータを用いた分析を含めた、株主資本コストに関する研究結果に関しては、英文による初稿を完成させ、複数の国際学会に投稿した。その結果、平成30年度内に複数の国際学会で発表を行うことが既に決定した。 関連文献: 千野(2016)「雇用の流動性と企業の株主資本コスト:労働者派遣法改正が与えた影響」、2016年日本ファイナンス学会発表論文
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
申請時における研究計画の第1段階では、千野(2016)における労働者派遣法改正と株主資本コストの関係が、実際に派遣雇用の増加を通じてもたらされたことを、派遣雇用者数のデータを用いて確証する計画であった。当初の計画では、2003年派遣法改正を操作変数とした2段階推定法により、初めに2003年派遣法改正が派遣雇用者数に与えた影響を推計し、次に派遣法改正が派遣雇用者数の上昇を通じて株主資本コストに与えた影響を推定する予定であった。しかし、実際に派遣雇用者が増加したのは法改正施行時(2004年)以降である一方、株価および株主資本コストに影響を与えた時期は法改正可決時(2003年)であるので、時期が異なることから2段階推定法が適切ではないことが分かった。そこで、「研究実績の概要」において前述した代替的な方法を用いて、派遣雇用者数と株主資本コストの関係を推定した。 現在までのところ、第1段階は終了している。また、労働者派遣法改正が株主資本コストに与えた影響に関する英文による初稿を、平成29年度に完成させた。平成30年度内に、既に決定している複数の国際学会発表を経た後、海外学術誌に投稿を始めていく予定である。今後は第2段階として、労働者派遣法改正が企業価値、財務戦略(資本構成、現金保有、株主還元政策、等)、および負債コストに与えた影響を分析していく予定である。現段階では、研究全体の約40%を達成した段階と考えている。研究実施計画書では、財務データベースの契約を平成29年度から始める予定であったが、当該年度に行った実証分析は、当該年度以前に入手していた財務データのみを用いての分析が可能だったため、当初予定していたデータベースの契約を1年間先延ばしにした。平成30年度からは、科研費を用いて、日経NEEDS Financial Questを1年間契約する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は研究の第2段階として、労働者派遣法改正が企業価値、財務戦略(資本構成、現金保有、株主還元政策、等)、および負債コストに与えた影響を分析していく予定である。既に幾つかの初歩的な分析は試みており、派遣雇用の増加が企業価値(Tobin Q比率)に与えた影響に関しては、理論と整合的な結果を得ている。一方、資本構成、現金保有、株主還元政策、等の財務戦略との間の関係については、現在までのところ、理論的に整合的な解釈が難しい推定結果を得ている。今後は、派遣雇用者の増加と、これら一連の財務戦略との間の理論的関係を再度検討し、仮説の再考を行う予定である。 負債コストに関しては、申請時における研究計画では、日経NEEDSの非上場債券データを用いて、社債利回りを負債コストの代理変数として分析を行うことを予定していた。しかし、情報ベンダーから入手した社債情報のサンプルデータを確認したところ、派遣法改正時の各社債の流動性が全体的にかなり低く、また各社債の付帯条項等も大きく異なることから、労働者派遣法改正が社債利回りに与えた影響を正確に推定することは、かなり困難であることが予想される。今後、負債コストに対する分析を本格的に行うか否かは、慎重に検討する必要がある。 いずれにせよ、最終的に本研究による論文が上位の海外学術誌に採択されるか否かは、2003年の派遣法改正を利用して、製造業企業を処置群、非製造業企業を対照群とする識別戦略の客観的妥当性に大きく依存すると考えている。今後は、この点に関する学会討論者からのコメント等を参考にしながら、論文の改訂および学術誌への投稿・再投稿を継続していく予定である。
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Causes of Carryover |
研究実施計画書では、財務データベースの契約を平成29年度から始める予定であったが、当該年度に行った実証分析は、当該年度以前に入手していた財務データのみを用いての分析が可能だったため、当初予定していたデータベースの契約を1年間先延ばしにした。従って、当初予定していた平成29年度内のデータベース契約費は発生しなかった。平成30年度からは、科研費を用いて、日経NEEDS Financial Questを1年間契約する予定である。また、平成29年度内は、本研究課題に関する学会発表等は行わなかったので、旅費等は発生しなかった。以上が、次年度使用額が生じた理由である。
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Research Products
(2 results)