2019 Fiscal Year Research-status Report
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17K03821
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Research Institution | Nagasaki University |
Principal Investigator |
千野 厚 長崎大学, 経済学部, 准教授 (30647988)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 資本コスト |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、2003年の労働者派遣法改正により製造業において急激に増加した派遣雇用が、製造業企業の資金調達コスト(株主資本コストおよび負債コスト)および財務戦略に与えた影響を推定する。2017年度および2018年度には、株主資本コストに関する追加的な分析を含めた英文の原稿を完成させ、国際学会での発表および国際学術誌への投稿を複数回行った。その結果、2019年度初めにJFQA誌から改訂要請を受けることができたが、JFQA誌の査読者から主に3つの追加的な分析を要求された。具体的には、1) 正規雇用者と非正規雇用者の賃金の硬直性の比較、2) 派遣雇用の増加が企業の人件費の硬直性に与えた影響、及び 3) 法改正が負債コストに与えた影響を分析するように要求された。査読者の要求に応じて、1)の点に関しては、厚生労働省が毎年行っている「賃金構造基本統計調査」のデータを用いて、非正規雇用者の賃金の変動が正規雇用者のそれよりも大きい事実を示した。2)の点に関しては、製造業企業において法改正後に、売上高の変化に応じた人件費の変化の度合いが大きくなったことを示すことにより、当該企業において人件費の硬直性が低下したとことを示した。3)の点に関しては、金融系データベンダーから入手した社債発行時の利回りと国債利回りの差(イールドスプレッド)を負債コストと定義し、製造業企業において法改正後に負債コストが低下したことを示した。これらの分析結果を追加した改訂稿を再投稿した後、2019年10月にJFQA誌から掲載許可の通知を受けた。以上が、2019年度の研究実績である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
申請時における研究計画では、2019年度末までに、労働者派遣法改正が製造業企業の資本調達コスト(株式資本コストおよび負債コスト)に与えた影響をまとめ、論文が国際学術誌に採択されることを目標としていた。2019年度内には、科研費を用いて金融系データベンダーから負債コストのデータを購入することにより、査読者の要求に応じた分析を進めることができた。結果的に、2019年10月に論文がJFQA誌に掲載許可されたことで、当初の主な目的はほぼ達成されたと考えている。最終年度では、本研究の目的をより精緻に達成するべく、法改正が製造業企業の財務戦略に与えた影響に関する分析も行う予定である。この点に関しては、実際には資本構成や現金保有等の財務戦略に関する分析は同時に行っていたのであるが、分析結果が有意でない、または結果の理論的な解釈が難しい等の理由により研究を大きく進めることはできなかった。この点を総合的に考慮すると、現段階において研究全体の約90%を達成した段階と考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
「現在までの進捗状況」でも述べたが、労働者派遣法改正が製造業企業の財務戦略に与えた影響に関しては、前述した理由によりこれまで研究を大きく進めることができなかった。この点を補うために、最終年度となる2020年度においては、当該法改正が資本構成や現金保有以外の様々な企業レベルの財務戦略に影響を与えたか否かをより詳細に分析する予定である。財務戦略における具体的な分析対象は、設備投資等も新たに含めて現在幾つか検討しているが、今後分析対象を慎重に絞り込んだ後に、必要に応じて科研費を用いて財務データを購入し、分析を進める予定である。もし良好な分析結果が得られた場合には、分析結果を新たな論文としてまとめて、学会発表および学術誌投稿を行っていきたいと考えている。
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Causes of Carryover |
次年度使用が生じた理由については、「現在までの進捗状況」及び「今後の研究の推進方策」の内容にも関連するが、労働者派遣法改正が製造業企業の財務戦略に与えた影響に関する詳細な分析を最終年度に行う計画があったため、現在までの支出額を当初の使用予定額よりも低い水準に収めてきたことが背景にある。最終年度にあたる2020年度には、次年度使用額の研究費を用いて必要な財務データを購入し、当該分析を進める予定である。
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