2018 Fiscal Year Research-status Report
Comparative Study on Town Planning and Regional Planning in Britain and Germany during the First Half of the Twentieth Century
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17K03830
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
馬場 哲 東京大学, 大学院経済学研究科(経済学部), 教授 (40192710)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 都市計画 / 地域計画 / 計画思想 / 郊外化 / 都市=農村計画法 |
Outline of Annual Research Achievements |
20世紀前半のイギリスとドイツにおける都市計画から地域計画への発展の実態とその社会経済的および思想的背景を比較史的に探ることが本研究の課題である。そのためのひとつのアプローチとしてまず長期的な視点に立って19世紀~20世紀全体を視野に収めて考察を進めた。イギリスでは、1932年に都市・農村計画法がはじめて制定されたことが示すように、この時期計画思想の普及とともに農村も計画の対象となったが、その過程が郊外化と重なって都市と農村の関係の緊密化と両者の変容をもたらした。すなわち、第一次大戦後に都市域がさらに拡大すると農村地域を含む地域計画が構想されるようになったが、農村が計画の対象になったのは、都市域の拡大により農村景観が損なわれはじめたためであった。都市圏の拡大は交通手段の発達を背景とする郊外化の帰結でもあり、20世紀後半には都市から農村への人口の逆流だけでなく、都市的な態度と行動が持ち込まれたことによる農村の変質をも引き起こした。ドイツでも郊外化はやや遅れたが、1920年代から都市と農村の関係の再編が始まり、地域計画が構想されるようになった。しかし、農村が「都市性」に解消されることはなく、「農村性」固有の価値もなお存続した。この研究の骨子を、2018年5月の社会経済史学会全国大会特別講演で「近現代史における都市と農村」として発表し、増補改訂のうえ『社会経済史学』に投稿した。 また、イギリスやドイツにおける都市計画から地域計画への制度的・思想的発展が、同時期の日本における展開過程にどのような影響を及ぼし、どのような差異をもたらしたかを考察し、ドイツで2018年8月(レーゲンスブルク大学)および2019年3月(フンボルト大学)に開催されたドイツ都市史・都市化研究学会との国際ワークショップで報告した。報告の内容も拡充のうえ英文論文集に寄稿する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成30年度は、イギリスとの比較を念頭に置きながら、20世紀前半のドイツにおける都市計画から地域計画への発展の過程とその思想的背景を明らかにすることを主たる課題とした。具体的には、1920年代以降のドイツにおける地域計画の代表的事例であるルール炭鉱地区定住地開発組合(Siedlungsverband Ruhrkohlenbezirk)に注目した。国内では東京大学および京都大学の図書館で、国外ではバイエルン州立図書館およびミュンヘン大学図書館で関連文献を収集した。また、当初は想定していなかったが、地域計画が都市=農村計画とも言われるように、都市計画のたんなる拡張というよりも、農村を巻き込むことにより、都市と農村が新たな関係を構築するという側面の重要性に気が付き、郊外および農村を考慮する必要を認識した。さらに、国際共同研究に参加することで、欧米の都市計画・地域計画の展開が同時代の日本にどのような影響を与えたかという点にも注意するようになった。その意味で、研究対象に対する関心が広がって拡散したとも言えるが、地域計画の成立の意味をより立体的に把握できるようになったと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
平成31年度には、イギリスおよびドイツにおける都市計画から地域計画への発展の過程を、社会経済的側面を中心にして比較史的に解明することを引き続き進めるが、それと並んでその思想史的背景についても留意したい。具体的には、都市社会主義がイギリスおよびドイツにおいて一定の影響力をもったことが知られているが、他方で19世紀末以降の自由主義思想の変容が都市計画の成立にどのように作用したかどうかを探る必要がある。その場合、イギリスで言えば、トマス・アダムズ、レイモンド・アンウィン、パトリック・アバークロンビー、ドイツで言えばエルンスト・マイ、ロベルト・シュミットといった計画家がどのような思想をもっていたかに注目する必要がある。 また、こうした過程が、欧米への留学や視察をつうじて官僚や学者によって同時代の日本にどのような影響を与えたかについても検討したい。研究方法としては、国内外の図書館に所蔵されている研究文献の収集・検討が基本となるが、当事者による同時代文献や国外、今年度はイギリスのBritish Library, London Metropolitan Libraryなどの機関に所蔵されている資料・文献の調査が必須である。
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