2018 Fiscal Year Research-status Report
失業をめぐる都市ガバナンスの史的研究―世界恐慌期ドイツを事例に―
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17K03832
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Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
森 宜人 一橋大学, 大学院経済学研究科, 准教授 (10401671)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | ドイツ / 社会国家 / 世界恐慌 / ハンブルク / 失業者救済 / 都市ガバナンス |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、世界恐慌期ドイツにおける失業者救済体制の変容とその帰結を都市ガバナンスの視角から考察し、危機下における都市社会の歴史的実態を解明することにある。分析視角の都市ガバナンスとは、ライヒ・都市自治体の政府部門、民間企業、ボランタリー組織の間の相互関係を通じて構築される都市秩序と定義する。この研究を通じて、国家だけではなく、都市自治体や民間組織などの多様な自立的組織によって構成される「福祉社会」の重層性を「都市ガバナンス」の視点から明らかにし、「長い20世紀」の歴史を把握する上での都市史研究の意義を問いかけることができよう。 2年目にあたる2018年度はまず、前年度のドイツでの史料調査で収集してきた労働扶助に関する未公刊史料ならびに刊行史料の整理・分析を進めた。その中間成果を5月に大阪大学で開催された社会経済史学会第87回全国大会の自由論題セッションにおいて「危機下の社会国家と都市自治体―世界恐慌期ハンブルクにおける雇用創出―」として報告し、セッションで得られたコメントをもとに報告原稿に加筆修正を施し、『社会経済史学』に論説として投稿した。8月には再びドイツに赴き、ハンブルク国立図書館、ハンブルク州立公文書館、ハンブルク現代史研究所において、今後の研究の遂行に必要な未公刊一次史料および各種刊行史料の調査を行ってきた。この史料調査により、世界恐慌期のライヒ失業保険の制度改編をめぐるライヒや、自治体、自治体連合体の史料を収集することができた。 年度の後半は、これら史料の整理・分析を進めるとともに、『社会経済史学』のレフェリーのコメントにもとづき投稿論文の改稿に取り組んだ。そして2019年3月にベルリンにおいて国際ワークショップを組織し、ドイツを含むヨーロッパ都市史の成果と日本都市史のそれといかに融合させるかについて討議した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2017年度からの2度にわたるハンブルクでの史料調査と、一橋大学の附属図書館および経済研究所資料室に所蔵されている刊行史料の整理・分析を進めることにより、恐慌期の失業者救済をめぐる都市ガバナンスを検証する上で重要な論点となる労働扶助およびライヒ失業保険制度の改編をめぐる都市とライヒ(中央政府)の関係を分析するために必要な定性的ならびに定量的データを得ることができた。その成果の一部をふまえた社会経済史学会での報告及び『社会経済史学』に投稿した論考の執筆作業を通じて、恐慌期の都市自治体による労働扶助が、一般に若年層と比較して労働能力の劣ると考えられる子持ち世代の公的扶助受給失業者の救済に主眼を置いていたことを明らかにした。このことは、恐慌期の都市の雇用創出を目的論的にナチス的福祉への前史としてのみ捉える従来の研究史のあり方に再考を促すことにつながる。 以上より、本研究はまだ道半ばの状況にあるとはいえ、当初設定した研究視角にそって研究を進める基礎を固めることができ、その成果の一部を学会報告や論文の投稿を通じて公表することができたといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
2019年度の前半は、引き続き今年度の史料調査で収集してきた史料の整理・分析を行うとともに、その成果を2019年10月に東北大学で開催される政治経済学・経済史学会秋季学術大会の自由論題セッションで報告する準備をする。そして同学会で得られたフィードバックをもとに、報告原稿に加筆修正を施して論文としてまとめるとともに、8月に再びドイツに赴き、ハンブルクを中心に史料調査を行い、今後必要となる史料の補完を行う予定である。
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