2021 Fiscal Year Research-status Report
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17K03843
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
森 良次 広島大学, 人間社会科学研究科(社), 教授 (10333999)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | ドイツ経済史 / 労働集約型産業発展 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、工場制化の度合いが低く中小経営が支配的な産業をドイツにおける労働集約型産業と捉え、その動態を世界市場とそこにおける国際競争関係のなかに位置づけ評価するものである。2021年度もドイツ最大の玩具企業、Bing社の企業集中過程(第1次大戦後)とマーケティング政策を検討した。その結果、次の点が明らかとなった。 ①Bing社の経営発展は、自社工場の生産能力拡充によるよりも、企業買収によりもたらされたものである。その企業集中の特徴は、垂直統合指向が低く、企業買収のほとんどはBing社と同じく玩具の完成品メーカーであったという点にある。垂直統合指向の強いアメリカ玩具産業とは対照的な経営発展の方向である。 ②企業集中の動機は、ライバル企業との競争回避や効率的な生産体制の構築にではなく、自社製品を拡充し、「玩具の百貨店」を実現することにあった。そのためにBing社はドイツの主要玩具産地に購買センターを設置し卸売業務と自社製品の外注を行うとともに、ブランド力のある玩具企業を買収した。それは、自社製品を充実させることで、多種多様な製品群からなり流行の変化の著しい玩具市場において、優位に販売活動を展開しようというマーケティング上の要請にもとづくものであった。 ③同時にそれは、第1次大戦後の輸出不振、とりわけ最大の輸出市場アメリカでの輸入代替の進行とアメリカ玩具企業の大規模低価格品生産への対応でもあった。アメリカでは19世紀末以降、高額玩具を扱う百貨店の発展がみられた一方、農村需要を取り込むカタログ販売が伸長し廉価玩具の販売が急増していた。Bing社の企業集中は、前者の需要に特化した対応であった。その際、Bing社は貿易商や販売代理店経由の輸出にかえて直接輸出を開始するが、多様な高額玩具(買収した企業により生産された玩具)を自社製品にもつことは、販売政策上極めて重要であった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
新型コロナウイルスの世界的流行のため、予定していたドイツでの史料調査ができず、実証作業が停滞したため。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度はドイツでの史料調査を実施し、Bing社の企業買収に関わる史料を入手・分析する。昨年度検討したアメリカ玩具市場の動向とBing社の企業集中との関連を考察し、論文化する。 またBing社にみられる企業集中を、戦間期ドイツ玩具産業の新展開と位置づけ、労働集約型産業のなかから労働集約型大工業が登場する事例として評価する論文をまとめる。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルスの世界的流行のため、学会参加やドイツ史料調査実施に伴う旅費が発生しなかったため。 今年度はドイツでの史料調査を計画しており、旅費と史料整理のためのアルバイト代(人件費)を中心に研究費を使用する予定である。
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