2017 Fiscal Year Research-status Report
History of East German Industry -a case study of optics and precision mechanics industry as a regional economic tie between Saxony and Thuringia
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17K03848
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Research Institution | Kushiro Public University of Economics |
Principal Investigator |
白川 欽哉 釧路公立大学, 経済学部, 教授 (20250409)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | ザクセン / テューリンゲン / 写真・映像機器 / 工業立地 / 企業集中 / 国際競争圧力 / 社会主義化 / 東西比較 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成29年度は、4つの重点を柱に研究を進め、以下の成果が得られた。 (1)研究会での発表と問題整理:5月の近現代ヨーロッパ史研究会において、拙著『東ドイツ工業管理史論』の到達点と今後の課題、とりわけ後者の論点について報告し、メンバーの方々の意見をいただいた。個別の地域(ザクセン、テューリンゲン)ならびに工業部門(写真・映像機器工業)を選択し、その歴史を19世紀に遡って分析する必要性については、おおむね賛同を得られたが、戦後史に最大の重心を置くべきではないかというご意見をいただいた。 (2)関連書籍の入手:購入にあたっては、①写真・映像機器、感光材料、フィルムの誕生と発展に関する文献、②ザクセン、テューリンゲン経済史、③両地域の代表的精密機器、機械メーカーの歴史に関する文献(カール・ツァイス社、ドレスデンのカメラ製造企業など)を購入。 (3)海外出張と文献・資料収集:8月下旬から9月中旬にドレスデン、ベルリン、ライプチヒ、イェーナに滞在。ドレスデンでは、ザクセン州公文書館にて、第二次世界大戦以降のドレスデンのカメラ企業に関する社内文書、公文書を入手した。ベルリンでは、国立図書館にて日本に所蔵確認できなかった書籍のコピーし、また市内の古本店にて東西ドイツ経済史の書籍を購入。ライプチヒでは、国立図書館文館にてザクセンの産業遺産、精密機器ならびに化学工業関連書籍のコピーを行った。イェーナでは、カール・ツァイス社に関する情報を同社博物館、大学図書館で入手した。 (4)研究ノートの作成:収集した文献と資料に拠りながら、本学紀要『人文・自然科学研究』第30号に「ザクセンとテューリンゲンにおける写真・映像機器工業の展開(1)―産業立地、国際競争、経営統合の観点からー」(1840年代から1909年頃まで)を投稿・発表した。同研究ノートは、今後シリーズ化して発表する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成29年度においては、春の研究会で研究課題の焦点を明確にすることができた。そこで確定した方針にしたがい、一年を通じて邦語ならびに外書文献を国内で購入することができた。また8月から9月にかけての海外出張中に公文書館や国立図書館などで第一次史料や書籍のスキャンおよびコピーを行うことができた。年度途中で学務にやや多くの時間をさかねばならなくなった(図書館長、大学基準協会自己点検評価担当、教務、FD担当)が、入手した資料にもとづいて研究ノートの作成にこぎ着けることができた。 本研究は、1840年代から1990年代までの長いタイムスパンを分析対象としているが、平成29年度は、ザクセン・テューリンゲンの光学・映像機器工業の黎明期となった19世紀の動向(自由主義段階)について、先行研究の分析、技術史の研究の成果も交えながら明らかにすることができた。その成果の一つである研究ノートでは、数あるドイツの大都市のなかで、なぜドレスデンにカメラ企業の集積がみられるようになったのかを明示することができた。これは、後述するカール・ツァイス社が主導した「経営統合」=企業集中の歴史につながる論点である。 研究の副産物として、撮影用フィルムの誕生、とりわけアメリカのロール・フィルムの生産がドイツのフィルム生産への刺激となり、それが世紀末以来のザクセン・アンハルトの化学工業地帯において写真フィルムの製造が始まったことが見えてきた。この点が、ザクセンのカメラ(そして映画用撮影機・映写機)工業の技術革新につながったことも研究の射程に入ることとなった。アグファ社の第二次世界大戦前の歴史、そして戦後の東西分裂(カール・ツァイス社と類似する状況)は、カメラ工業の分析に随伴するものとして取り扱っていくことにしたい。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度の研究は、19世紀ドイツの自由主義段階におけるザクセン・テューリンゲンの光学・映像機器工業が、同部門の技術先進国であったフランスとイギリスに遅れを取りつつも、徐々に国産化に向けて歩みだしていく姿を浮き彫りにした。なかでもドレスデンのカメラ工業の勃興と1880年代頃からの急成長は、ドイツ工業が後発国としての利益を得つつ、世紀末大不況以降に技術的にも経済的にも伸長する過程に連動していたことが読み取れる。 平成30年度は、そうした状況の確認を踏まえて、20世紀前半に第一次世界大戦を間に挟んで起きたカメラ工業の経営統合(=企業集中)を中心に、先行研究のサーベイを進めながら分析を深めていきたい。ICA(通称、イカ)とツァイス・イコンの誕生は、顕微鏡とレンズ製造の技術的先進企業であったテューリンゲンのカール・ツァイス社が、主としてドレスデンのカメラ工業、さらにはベルリンやブランデンブルクのラーテノウの企業と積極的に経営統合を果たしてきた結果でもある。統合により、どのようなメリットを引き出そうとしたのか、反対にどのようなデメリットの克服を目指したのかを明らかにしたい。 今年度は、上記の研究に加えて、昨年度収集したアーカイブ史料や国立図書館で複写した諸文献の抄訳を進め、第二次世界大戦後の東ドイツにおいて再出発したツァイス・イコンと、東西に分裂したカール・ツァイス社に関する分析(平成31年度予定)の準備も進めたい。 なお、平成30年度春より学部長に選出され学務負担が激増したため8月下旬から9月に予定していた海外出張や国内出張は先送りせざるを得なくなる可能性がある。 とはいえ、5月には20世紀前半のザクセン・テューリンゲンのカメラ工業の状況について研究会で報告することが決定している。また、アーカイブ史料の翻訳の成果は紀要(9月締め切りまたは12月締め切り)にも発表する予定である。
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Causes of Carryover |
平成29年度後期に、発注した外国語文献が予期せず発送されないことが複数回発生(19世紀の統計年鑑。古書店の事情でクレジット決済できなかったことに由来)したため年度内に支出できない「物品費」を生じさせてしまった。「次年度使用額」に回された予算については、平成30年度に外国語文献の購入に充てていきたい。
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Research Products
(1 results)