2018 Fiscal Year Research-status Report
History of East German Industry -a case study of optics and precision mechanics industry as a regional economic tie between Saxony and Thuringia
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17K03848
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Research Institution | Kushiro Public University of Economics |
Principal Investigator |
白川 欽哉 釧路公立大学, 経済学部, 教授 (20250409)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | ザクセン / カメラ・映写機製造業 / 工業立地 / 企業集中 / 国際競争 / 社会主義化 / 東西比較 / カール・ツァイス・イェーナ |
Outline of Annual Research Achievements |
平成30年度は、学部長就任により日程がとりづらくなったため、海外出張によるアーカイブ史料の収集は中断し、つぎの4点に集中して研究を進めた。 (1)研究会での発表と問題整理:第9回近現代ヨーロッパ史研究会(平成30年5月27日、近畿大学)において、「ザクセンおよびテューリンゲンにおける写真・映像機器工業の展開」について報告した。討論で最も関心が集まったのは、「なぜ、カメラ製造の一大拠点が王都ドレスデンに誕生したのか」であった。カメラやレンズ製造の先発国はフランスやイギリスであったが、ドレスデンのカメラ・映写機製造は、写真紙や印画紙製造の優位、カメラボディーの製造に携わる家具・指物師の集積もあって19世紀末までに急成長を遂げた。上記の問いに答えるためには、さらに同地の経済事情の分析(例:ザクセンの繊維機械製造業の日人と技術の集積)が必要だが、それは今後の課題とした。 (2)前年度に明らかにできなかった論点は、ドレスデンのカメラ製造企業の「国際競争力」であった。今年度は海外出張で入手したアーカイブ史料(元非公開文書)の一つである「ドレスデンにおける写真・映像機器工業に関する研究」の翻訳を通じて、1950年代にドレスデンで製造されたカメラの輸出上の問題点、課題克服に向けた業界再編の一端を垣間見ることができた。権力に臆することなく、企業側(とくに技術者たち)が、地方政府の行政機関(計画当局)に問題を投げかけている様子をうかがい知ることができた。分析対象となる時期が19世紀末から戦後に飛んだが研究上の意義があると考え、本学紀要に掲載した。 (3)前年度の研究を通じて、本年度には新たな研究テーマが浮き彫りとなった。カメラ・映写機の製造と大衆化に寄与したロールフィルムの登場と生産に関する分析に向けて化学工業部門のアグファ・ヴォルフェンに関連する文献の収集を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成30年度年度春からの、学部長(任期2年)就任により研究時間が大幅に減少したことで、研究にブレーキがかかったことによる。また、平成29年度から収集を続けている多くの文献の整理と読み込みに時間がかかっていることもその一因である。 それでも研究課題を進めるべく、次の三点の研究を深めている。第一に、昨年度の研究の副産物として、写真用フィルム製造企業への関心が派生してきた。機械工業とともに19世紀後半以降のドイツ工業の重要な柱となる「化学工業」において、大衆消費時代の到来にも関連する写真部門の分析は、第二次大戦後の東ドイツ工業のもう一つの源流の解明に寄与すると考えている。この新たな課題への挑戦は、当初の研究のスピードを結果的に制約することになったが、写真、映画撮影のための機器の改良と新しい感光媒体としてのフィルムの登場は表裏一体の関係にあるので、後回しにせずに進めていきたい。 第二に、昨年度から執筆とシリーズ化(研究ノート)を始めた「ドレスデンの写真・映像機器工業」の研究の一環として、個別企業の社史、広くザクセン、テューリンゲンの機械工業に関連する文献を新たに入手しているが、学務優先の日常もあって、整理と読み込みに時間がかかっている。 第三に、一昨年度入手したアーカイブ史料の翻訳に時間がかかったことが理由としてあげられる。1950年代におけるドレスデンのカメラ製造企業の「国際競争力の低下」とその対策としての「経営統合」戦略に関する史料を活かすべく、その周辺事情に関する文献を収集したり、翻訳のより良き理解に向けた解説用の注の作成に時間が必要であった。 平成31年・令和元年も学部長業務が継続するため、研究期間の延長についても考えておきたい。
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Strategy for Future Research Activity |
平成31年・令和元年度の研究は、これまで得られた知見を踏まえて、以下の二点を目標に据えたい。 第一に、平成30年度中に執筆する予定だった事柄を研究ノートにまとめたい。第一次世界大戦前後から動きのあったドレスデンのカメラ製造企業の経営統合を中心に、新たに収集した文献のサーベイを進めながら分析を深めるためである。経済史研究が明らかにしてきた「巨大企業の20世紀」が、ICA(通称、イカ:4社合併により1909年設立)とツァイス・イコン(カール・ツァイス・イェーナ主導でICAほか3社が合併:1925/26年。28年までさらに2社合併)の誕生を事例に跡付けられるとともに、合併劇の推進力となった諸要因(国際的な技術革新競争、価格競争、市場獲得競争など)を整理して提示したい。 第二に、平成30年度中に文献収集とサーベイを続けてきたアグファ・ヴォルフェン社(フィルム、写真剤)の歴史に関する論稿をまとめることにしたい。というのも、この研究は、19世紀末からのドレスデンの写真・映像機器工業の成長と再編と並行、連動するものだからである。すでに平成30(2018)年度に、①写真・映像機器、感光材料、フィルムの誕生と発展に関する文献、②それらの製品を生産する企業の歴史(とくにドレスデンのカメラ製造企業の古書、ベルリン、プロヴィンツ・ザクセンのフィルム製造企業)に関する文献の入手し分析を始めている。 なお、繰り返し述べてきた通り、平成30年度春以来の学部長の業務の増加により、今年度は海外出張や学会報告のための国内出張は先送りにしてきた。平成31年度・令和元年度は、上記の二つの課題を実現するために、学会報告を見合わせざるを得ない。とはいえ将来的には学会への成果報告を通じて、自分の研究の相対化をはかる必要があるので、現時点で「研究計画の1年延長(基金使用の繰り越し)」も射程に入れていることを付け加えたい。
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Causes of Carryover |
平成30年度春から、学部長として多岐に及ぶ業務を抱えていたため、アーカイブ史料の収集とザクセン、テューリンゲン、ベルリン産業史関連の博物館の訪問、国立図書館での文献複写(日本の図書館や書店を通じて入手できない文献)などに必要な海外出張や学会報告や史料収集のための国内出張は先送りにせざるをえなかった。 かわりに、本研究課題で分析される写真・映像機器関連企業の経営統合とその戦略を知るために、ICAとのちのツァイス・イコンに合併された企業の社史等を収集した。また、本研究課題から派生した化学工業の亜部門の研究書、写真・映像機器、感光材料、印画紙、フィルムの誕生と発展に関する文献、それらの製品を生産する企業の歴史(ザクセンの製紙企業、ベルリン、プロヴィンツ・ザクセンのフィルム製造企業)に関する文献、さらにはザクセンの伝統的手工業、繊維工業、繊維機械工業に関する文献を購入し、読み進めているところである。 今年度は、上記の二つの執筆目標を実現するために、学会報告を見合わせざるを得ない。とはいえ学会への成果報告を通じて、自分の研究の相対化をはかる必要があるので、「研究計画の1年延長(基金の繰り越し)」も射程に入れている
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Research Products
(1 results)