2020 Fiscal Year Research-status Report
History of East German Industry -a case study of optics and precision mechanics industry as a regional economic tie between Saxony and Thuringia
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17K03848
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Research Institution | Kushiro Public University of Economics |
Principal Investigator |
白川 欽哉 釧路公立大学, 経済学部, 教授 (20250409)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | ザクセン / カメラ・映写機製造業 / 工業立地 / 企業集中 / 国際競争 / ツァイス・イコン社 / アグファー・ヴォルフェン社 / カール・ツァイス・イェーナ社 |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度は、前年度までの役職(学部長、教務委員長、人事委員長等)の任期を終えたため、2019年度に使用できなかった補助金を海外出張による資料・史料収集に充てることができる想定でいた。しかし、2019年度末からの新型コロナウイルス感染拡大の影響は、2020年度の研究に不安を投げ掛けた。 新年度4月からは、前年度までの役職経験を踏まえて、大学の「遠隔授業プロジェクト」の実施を任され、暗中模索の「組織化」に携わるなかで研究に時間を割くことが困難になった。また、他大学の例にもれず、非対面授業のための準備時間(プリント、動画等)と講義後の対応が格段に増えたことも、研究時間の減少につながった。 新型コロナへの対応が続くなか、計画を余儀なくされた事項、若干の成果はつぎの通りである。 ①海外出張による資料収集の計画は、2020年度も断念せざるを得なかった。不足している文献は、19世紀末から20世紀前半のドイツ写真化学工業(とくにドレスデンのカメラ製造企業)に関するザクセン州立公文書館史料とドレスデン商工会議所の史料であった。また、研究途上で新規課題として浮上してきたザクセン=アンハルト州の化学工業地帯に生まれたフィルム製造企業に関する史料収集も滞った。 ②2020年度においては、上記のように現地での第一次史料の収集は断念したが、すでに入手した史料や文献をもとに、中断していた国内の研究会での報告、論文、ディスカッション・ペーパーの執筆を目標に据えた。しかし、先述の理由から研究に専念することができず、いずれも実現することができなかった。 ③新規課題として「カメラ・撮影機・映写機工業」と「フィルム工業」の関連性、そしてそれらの産業と大衆消費文化の誕生との関連性に気づき、関連する文献を読み進めることができたのは、僅かながらの成果の一つであった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
研究の進捗の遅れの理由は、つぎのとおりである。 1.学務負担の増加:「研究実績の概要」のとおり、2020年度は、前年度までの役職(学部長、教務委員長、人事委員長、学生委員等)の任期を終えたが、新年度4月からは、新型コロナ対策に関連して「遠隔授業の技術支援(大学で利用中のLMS=Glexa及びMicrosoft Teams)」を目指したプロジェクトチームの業務をリードすることとなった。また、FD委員長として、遠隔授業に関する交流会や大学生協に支援される形でMicrosoft社による研修会などを組織して、授業支援を行ってきた。さらに、非対面授業のための準備時間と講義後の対応が格段に増えたことで、上記の学内業務と相まって、研究時間を確保するのが困難となった。 2.新型コロナウイルスの世界的拡大: 新型コロナウイルス感染の影響により、ドイツでの史料収集の計画は、2019年度も、2020年度も断念せざるを得なかった。また、2020年度には、研究途上で浮上した旧東ドイツの経済・経営学者、元行政官との交流の機会も、渡航制限によって実現できなかった。 3.資料収集上の困難: 研究計画がスタートした2017年度には、ドレスデンの州立公文書館での史料収集や、ライプチッヒ、ベルリンの図書館での旧東ドイツ時代の研究書や歴史関連の書籍の新たな発見などがあった。また2018年度は、学務が忙しくなったものの、多くの外国語文献を手に入れることができた。しかし、学務が一層多忙となるなか、19年度は海外出張に出掛けることができず資料収集のスピードが遅れ始めた。そして、20年度は、新型コロナの影響で、前年度の穴埋めをすることができなくなった。不足している文献は、「研究実績の概要」に記載したとおり、ザクセン州立公文書館史料とドレスデン商工会議所の第一次史料や、ザクセン・アンハルト州の化学工業史に関する文献である。
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Strategy for Future Research Activity |
「現在までの進捗状況」にも示したように、2021年度も史料収集のための海外出張は困難であると考えている。現時点では、ドイツでの第一次史料の収集は断念し、すでに入手した史料・文献にもとづき、ディスカッション・ペーパーと論文等の執筆に集中したいと考えている。 ディスカッション・ペーパーは、本学紀要で抄訳と解説を行った第一次史料(企業内史料で、東ドイツ時代のザクセン州、のちにドレスデン県の機密文書として保管されていた)の全訳と解説で補強を行いたい。第二次世界大戦後のソ連軍政が解除されるなかで進行した写真・映像機器工業における企業集中をめぐるドレスデンの有力企業間の「対立」が、紀要では枚数制限があって部分的にしか描けなかった。今回は「対立」の全体像を明らかにしたい。 論文は、研究途上で浮上してきた写真化学工業(フィルム製造)の歴史(1880年代から20世紀初頭)の研究を踏まえて執筆したい。研究が遅れる中で読み進めてきたのが、このテーマの文献である。紙(鶏卵紙)とガラスの感光板の時代からフィルムの時代に変化したこと、それとの関連で活動写真が誕生し、それが大衆の娯楽産業として広がったり、一般市民が簡単に写真を撮れるようになったりしたこと、それらは、研究計画の柱である写真・映像機器製造業の展開とも密接に関連している。上記の分析は、企業レベルで行うことになるが、それはさらに「精密機器工業」と「化学工業(フィルム製造もその一部)」との関係、そしてそれらに支えられた地域空間である「ザクセン、テューリンゲン」と「ザクセン=アンハルト」の分業の歴史をも明らかにすることになると考えている。 末筆ながら、日本学術振興会のご配慮により「補助事業期間延長」を申請することがかない、2020年度、2021年度と二度にわたる延長をご承認いただいたことに心から感謝申し上げたい。
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Causes of Carryover |
「次年度使用額が生じた理由」は、2019年度の場合、本務校での学務負担(学部長、教務委員長、人事委員長等)の増加で研究時間を確保しずらくなり、また海外出張の機会を逸したこと、2020年度については、新型コロナウイルスの世界的な蔓延が、再度海外出張の実現を阻んだことにある。 現在、日本学術振興会のご配慮により、2021年度に「延長」して使用できることになった予算については、新型コロナ感染の影響により、海外出張(当初の計画では2019年度、第1回目の延長承認ののちの2020年度に使用するはずであった)に利用できる見込みがたたないため、新しく出版されつつある研究書、日本の図書館に所蔵のない古書(外国語文献に限定)のなかから選定して購入することにしたい。また、秋以降に国内出張ができるようになった場合には、研究会等での発表のための出張資金として活用したい。 かりに夏以降のドイツへの渡航が可能になった場合は、文献購入と国内出張への使用をやめて、一昨年計画して頓挫した、旧東ドイツ時代の研究者や元行政官から研究上の助言を得たいと考えている。昨年までの日程(再)調整では2021年10月を計画していたが、現時点の新型コロナ感染拡大の状況からすると、今年度も厳しいと推測している。
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