2017 Fiscal Year Research-status Report
A Study on the Deterioration Process of the British-centered Multilateral Payment System in the Inter-war Years
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17K03864
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Research Institution | Tohoku Gakuin University |
Principal Investigator |
佐藤 純 東北学院大学, 経済学部, 教授 (30413719)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 多角的貿易システム / イギリス帝国経済 / イギリス通商政策 / ブロック経済 / 国際投資 / 国際収支 / 中南米 / アルゼンチン |
Outline of Annual Research Achievements |
両大戦間期におけるイギリスを基軸とする多角的貿易システムの解体過程に関する研究を遂行していく上で必要な資料の収集とその読解、及び暫定的な研究成果を全国学会において発表した。具体的には、国際連盟刊行の統計資料等を収集し、中南米地域、特にアルゼンチンの1920年代における多角的貿易システムにおける位置づけに関する実証研究を、西洋史研究会(東北大学ヨーロッパ史研究室主催)の全国大会において発表した。 この発表では、1920年代の多角的貿易システムが、アメリカの資本輸出によってその基盤を与えられていたことを、アルゼンチンの対外貿易・決済関係を詳細に分析することで証明した。これにより、アメリカの資本輸出の途絶が多角的貿易システムの解体を導いていく過程を証明する作業に取り組むことが可能となった。 しかし、西洋史研究会においては、本研究に対する批判的な意見も出た。具体的には、世界経済のブロック化の嚆矢とされる1930年代イギリス通商政策を規定した利害関係を金融利害にのみ求めるのは問題があるのでは、というものである。したがって、今回の発表を論文にまとめる前に、1930年代イギリス通商政策の全体像について振り返る作業を行った。これにより、両大戦間期を包括的に検討した論文を構想することが可能となり、これを来年度の研究成果として発表する準備を行うことができた。 さらに、共著執筆の誘いを受け、「貿易が生み出す格差-イギリスを基軸とする多角的貿易システムの盛衰-」(仮題)と題したモノグラフを執筆することとなった。そのために、多角的貿易システムの形成過程、構造と特質、さらにはその解体過程に関してまとめる作業を行った。このモノグラフの作成準備をしていく中で、上記の西洋史研究会における発表の内容を敷衍することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題は両大戦間期におけるイギリスを基軸とした多角的貿易システムの解体過程に焦点を当てた研究である。この目的を果たすため、1920年代の中南米地域、特にアルゼンチンの対外貿易・決済関係に関する研究を行い、その暫定的成果を全国学会で発表することができた。さらには、全国学会における批判を踏まえ、1930年代におけるイギリス通商利害の全体像に関する研究史の整理も行うことができた。これにより、上記の学会発表を基として作成される予定の論文は、より完成度の高いものになると考えている。したがって、本研究は概ね良好に推進されていると言ってよい。 しかし、共著出版の誘いを受け、多角的貿易システムの概説の執筆を準備している中で、多角的貿易システムの形成過程やその構造と特質についても関心が向いてしまし、膨大な先行研究の収集・読解に時間を割いてしまった。具体的には、19世紀に存在した大西洋三角貿易とアヘン三角貿易が、アメリカの銀輸出によって、いかに多角的貿易システムの「原型」が作られていったのかを調査することに多くの時間を費やしてしまった。確かにこのテーマ自体は重要であるとは思うが、本研究はあくまでも多角的貿易システムの解体過程に焦点を当てた研究であるので、再度、軌道修正をしていく必要があると考える。 以上のように、いささか研究対象が拡散してしまっている。しかし、あくまでも両大戦間期における多角的貿易システムの解体過程を明確にするという目的を念頭に置きつつ研究を行ってきた。したがって、若干の軌道修正によって、予定通り研究を遂行していくことが可能であると考えている。 以上のように、研究はおおむね順調に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後第一に行うべきことは、29年度に行った学会発表の内容を論文にまとめることである。タイトルは、「1930年代イギリス通商政策の二国間主義への転換-両大戦間期アルゼンチンの貿易・決済関係の分析を通して-」を予定している。また、共著『格差社会論』において、イギリスを基軸とする多角的貿易システムの盛衰に関する論文を発表する。タイトルは「貿易が生み出す格差-イギリスを基軸とする多角的貿易システムの盛衰-」を予定している。この著書を執筆していく中で、多角的貿易システムの基本的概念について再確認したいと考えている。 さらに、多角的貿易システムに関する総括的研究を、国際学会で発表したいと考えている。具体的には、アジア太平洋地域の様々な分野の研究者が多数参加するAsia Pacific Business and Economic History Conferenceでの発表を考えている。可能であれば、平成31年2月に、遅くとも平成32年の2月には発表を実現したいと考えている。この国際学会での発表を踏まえ、英語雑誌への研究成果の投稿も行い、世界に広く研究成果を広めていく予定である。また機会があれば、勤務行で主催している公開講座において本研究の内容を紹介したいと考えている。 以上のように、多角的貿易システムの解体過程に関する研究を進める一方で、将来的にこの研究を発展させていくために必要な作業も行いたい。具体的には1930年代における世界経済のブロック化の嚆矢となったイギリスの通商政策についても検討したいと考えている。1930年代イギリス通商政策は、多角的貿易システムの解体によって大きく規定された側面を持つので、本研究を発展させることは、1930年代イギリス通商政策の全容解明つながっていくと考えている。
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Research Products
(2 results)