2018 Fiscal Year Research-status Report
A Study on the Deterioration Process of the British-centered Multilateral Payment System in the Inter-war Years
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17K03864
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Research Institution | Tohoku Gakuin University |
Principal Investigator |
佐藤 純 東北学院大学, 経済学部, 教授 (30413719)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 多角的貿易システム / イギリス帝国 / 海外投資 / 投資利害 / 自治領 / 非公式帝国 / 産業革命 / グローバリゼーション |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、イギリスを基軸とする多角的貿易システムの形成過程、及びその構造と特質を明確にした論文「貿易が生み出す格差-第一次大戦前のイギリスを基軸とする多角的貿易システム」(佐藤康仁・熊沢由美編著『親版 格差社会論』同文舘出版、2019年、第7章所収)を発表した。この論文において、イギリスを基軸とする多角的貿易システムの構造と特質を明らかにすることができ、同システムの解体過程を考察するための基礎的知見を得ることができた。具体的には、イギリスを基軸とする多角的貿易システムとは、同国の投資利害を迂回的に回収するためのグローバルなシステムであり、植民地インドや自治領オーストラリア、さらには「非公式帝国」アルゼンチンからの金融・経済的搾取を特徴とするシステムであったことを確認した。なお、同書は大学講義用の教科書、及び一般向けの概説書としての性格も有しているため、本研究の内容を広く周知することが可能となったと考える。 一方で、多角的貿易システムに関する古典的研究である洋書の翻訳原稿を完成させた。具体的には、国際連盟経済情報局『世界貿易のネットワーク』(原著:Eづconomic Intelligence Service,The Network of World Trade, League of Nations, Geneva, 1942)である。同書は1948年に大蔵省による訳本が出版されているが、誤訳が散見される上でに表現も古く非常に読みづらい。したがって、改めて翻訳しなおす作業を行った。原稿はすでに出版社に提出済である。校正作業をすみやかに行い2019年度中には出版したいと考えている。上述の『親版 格差社会論』同様、本書も大学講義用の教科書、及び一般向けの教養書としての性格も有しているので、多角的貿易システムやグローバル経済に関する知識を普及させることに資するものと考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は翻訳書『世界貿易のネットワーク』(国際連盟経済情報局)の執筆に一定の時間を割く結果となったため、イギリスを基軸とする多角的貿易システムの解体過程に関する研究に集中することができなかった。しかし、同書の翻訳を行っていく中で、イギリスを基軸とする多角的貿易システムの形成過程、及びその構造と特質を深く理解することができた。また、同書には多角的貿易システムの解体過程の概要も記されていたので、本研究を進めていく上でも有用な作業となった。この翻訳作業で得た知識をふまえ、2019年10月開催予定の政治経済学・経済史学会秋季学術大会(於:東北大学)においては、「両大戦間期におけるイギリスを基軸とする多角的貿易システムの解体」(仮題)というタイトルで自由論題報告を行う予定である。 以上のように、研究を総括していく目途は立っているので、研究はおおむね順調に進展しているといえる。しかし、2017年度に早稲田大学で発表したアルゼンチンに関する事例研究を論文にまとめるという目的を達成することが未だできていない。また、上記の翻訳書も実際には出版されておらず、具体的な研究成果を十分に出せていない状況であることは認めざるを得ない。 このような状況を十分に認識し、まずは翻訳書の校正を速やかに行い2019年度中の出版を実現したい。また、多角的貿易システムの解体に関する論文の作成も速やかに行うよう鋭意努力したいと考えている。具体的には、両大戦間期におけるイギリスを基軸とする多角的貿易システムの解体過程に関する論文を、勤務校の紀要に掲載することを目的としたい。論文の構成はできているので、現段階でおおむね本研究の目的は達成されているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
多角的貿易システムに関する古典的著書である翻訳書(国際連盟経済情報局『世界貿易のネットワーク』)の原稿を出版社に提出済であるが、今後この校正作業に一定の時間を割くことになる。2019年度中には出版できるよう校正作業を進めていく。 併せて、2019年度政治経済学・経済史学会秋季学術大会(於:東北大学)における報告の準備を鋭意進めていく。報告のタイトルは「両大戦間期におけるイギリスを基軸とする多角的貿易システムの解体」である。この報告により、1920年代末葉にイギリスを基軸とする多角的貿易システムが機能不全に陥っていく様相、及びそれを契機とするイギリス帝国経済ブロックの形成過程について明らかにしていく。上記学会発表をふまえ論文を作成する。この論文によって、多角的貿易システムの解体と、それに伴うイギリス通商政策が二国間主義化していく様相を実証的に示す予定である。 3年に渡る研究を締めくくるにあたり、国際連盟経済情報部の資料を広範に使用し、両大戦間期におけるイギリスを基軸とする多角的貿易システムの解体過程に関する論文、あるいは研究ノートを作成する。成果は勤務校の大学の紀要に発表する予定である。本論文の構成は①1920年代におけるイギリスを基軸とする多角的貿易システムの衰退、②1920年代におけるアメリカの資本輸出と多角的貿易システムの再建、③1920年代末葉における多角的貿易システムの解体とイギリス帝国経済ブロックの形成、以上となっている。 また、これまでの研究を総括し、単著『イギリス帝国とグローバリゼーション』(仮題)の作成に取り掛かる。2019年度中に同書を出版することは難しいが、原稿を概ね完成させていと考えている。基本的には研究書となる予定であるが、大学生の参考書や一般向けの教養書としても使用できるような著書にしたいと考えている。
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