2018 Fiscal Year Research-status Report
儒教倫理を活かした現代の経営哲学の探究-良心と自利心の共存をめぐって-
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17K03869
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Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
田中 一弘 一橋大学, 大学院経営管理研究科, 教授 (70314466)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 経済士道 / Integrity / 良心と自利心 / 儒学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、経済活動において良心と自利心の両立を図る(両者の共存可能性を肯定する)「経営哲学」について、その①思想的根拠と②現代への適用とを探求するものである。その際、儒教倫理の考え方を採り入れることに、本研究の大きな特徴がある。 もっとも、これまでの研究の過程で明らかになったのは、東洋の儒教倫理のみに依拠してこの種の哲学を考えるのではなく、(あくまで儒教倫理に軸足を置きつつも)西洋における同様の思想をも視野にいれて、より大きな視点から考える方が、議論の広がりと深みを増す上で有効だ、ということである。具体的には、東洋(とりわけ日本)における「士魂商才」と西洋(とりわけイギリス)における「経済騎士道」の双方に注目し、これらを統合した「経済士道」という観点を打ち立てて、そこから経済活動における「良心と自利心の両立」を考えていこう、というのである。 その際、Integrityが一つの重要なキーワードになることが、平成30年度に行った研究を通じて明らかになった。「誠実さ」ないしは「真摯さ」と訳されることの多いこの言葉は、儒学の五常では義と信を含むと考えられる。一方、西洋においても人格を形成する重要な要素と認識されているのがこのIntegrityである。いずれにせよ、これ自体は良心の領域に属する概念であるが、営利追求を伴う経済活動において自利心を「有効に活かす」上で欠かすことができないという意味で、「良心と自利心の両立」にとって重要な意味をもつ。 一方、儒教倫理をベースにした渋沢栄一の「道徳経済合一説」=「義利両全説」の経営哲学を引き続き検討しつつ、この考え方を (a)新興国の経済発展と(b)グローバル資本主義が抱える諸課題の解決とに活用できる可能性を示唆した共著論文の執筆を進展させた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
「研究実績の概要」で述べた事項のうち、「経済士道」については(一般には「商人道」と位置づけられることが多い)石田梅岩の思想の研究から多くの示唆を得、その中でキーワードとしてのIntegrityを析出することができた。成果物はこれからになるが、研究の焦点がかなり定まってきた手応えがある。 一方、渋沢の「義利両全」に係る共著論文(英文)については諸般の事情で当初予定していたものとは別の英文書籍への掲載の見通しとなったため、必要な枠組みの見直しを行い、それに基づき大幅な改訂作業を進めた。当該論文では、戦後日本の代表的な経営者である松下幸之助の思想と渋沢のそれとを比較することによって、渋沢の儒学を元にした理念についてこれまで研究代表者が明らかにしてきたものに加えて、新たなもう一つの本質が明らかになりつつある。
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Strategy for Future Research Activity |
当面は「経済士道」という概念を確立すべく、Integrityを1つの重要なキーワードとして、「士魂商才」と「経済騎士道」の思想の解明に注力する。前者については、引き続き渋沢栄一の「道徳経済合一論」を参照点としながら、①近代日本における「士魂商才」論の系譜、②本来、賤商的傾向の強い近世の武士道(特に儒学的士君子を目指した「士道」)が、しかし企業者のあり方に与えうる示唆、③「士魂商才」論のアンチテーゼとして唱えられる「商魂商才」論ないしは「商人道」論との比較、の研究を進める。また、「経済騎士道」については、英国のトーマス・カーライルやアルフレッド・マーシャルの所説を検討し、儒教倫理との比較を交えながら、東西融合的な「経済士道」論の可能性について検討していく。 それと同時に、これらの要と考えているIntegrityを、現代の企業統治とその改革に新たな分析視角と示唆を与える概念として彫琢し、この概念を使って実際に我が国の企業統治改革の課題を析出することにつなげたい。
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