2020 Fiscal Year Research-status Report
製品事故・リコール情報の収集・処理・伝達・学習プロセスに関する経営学的研究
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17K03892
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Research Institution | Kokugakuin University |
Principal Investigator |
星野 広和 國學院大學, 経済学部, 教授 (50369162)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 製品不具合 / イノベーションの停滞 / ドミナントデザイン / 製品・工程ライフサイクル説 / 道路運送車両法改正 / 自動車用エアバッグ |
Outline of Annual Research Achievements |
令和2年度は,製品リコール対象台数が急増する要因のひとつとして,部品や装置の共通化に着目し,タカタ製自動車用エアバッグの不具合およびリコール対応に関するケースを踏まえて,イノベーションの停滞が継続的な製品不具合に与える影響について考察した.具体的な研究成果は次の3点である. (1)タカタ製エアバッグ問題について,これまでコーポレート・ガバナンス,リコールマネジメント,組織文化(組織風土),経営倫理,自動車メーカーとサプライヤー間の責任,アメリカ規制当局との関係性,説明責任の欠如などがしてきされていたが,本稿では,エアバッグの不具合特定やリコールが長期化した理由のひとつとして,インフレータ(ガス発生装置)の技術的不具合および道路運送車両法改正前のリコール制度,つまり部品・装置メーカーの任意実施(回答)を挙げた. (2)タカタ製エアバッグ,特にインフレータ(ガス発生装置)の技術的進化において,吸湿性や相転移(結晶構造の変化)といったデメリットがあったため,それらを克服しかつ小型化,軽量化,低コスト化を実現した相安定化硝酸アンモニウム(PSAN)を使用したプロペラント(ガス発生剤)の開発によって,製品安全性および経済合理性を実現した技術革新の推移について調査,確認した. (3)Abernathy(1978)の「製品・工程ライフサイクル」説を踏まえて,PSANインフレータの開発により,一時は競争優位性を持つ「ドミナントデザイン」(本命製品)となったものの,その後の製品イノベーションが停滞し,しかも非自発的学習が継続することによって製品工程や製造管理が改善されなかった結果,製品不具合の是正が進展せず,リコール対象台数が拡大したのではないかという仮説を提示した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画における第Ⅳフェーズである,「製品事故・リコール情報の組織内・組織間的共有と組織的学習・忘却」について,法令(道路運送車両法)にもとづくリコールに焦点を当て,重大な製品欠陥に対するリコール対応およびリコール情報に関する組織内および組織間での学習と忘却についての事例研究を実施できた. 今回取り上げたケース(タカタ製エアバッグの不具合)において,自動車メーカーと部品・装置メーカー間,メーカーと規制当局間での不具合情報の共有や対応時間に課題があった. 特に,道路運送車両法改正前では,部品・装置メーカーはリコール実施(対応)が任意であったために,自発的な学習(製品の持続的改善や迅速なリコール対応)が行われなかった.それゆえ,非自発的学習(規制当局による強制リコール)が行われたものの,リコール対応は進まなかった.この点に関して,技術的側面(イノベーションの停滞)の観点からあらたに仮説を提示することができ,かつ非自発的学習が必ずしも主体的なリコール対応やリコール件数(リコール対象台数)の低減につながらないことを確認できた.
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Strategy for Future Research Activity |
令和元年度および令和2年度の研究において,製品事故や製品リコールの低減に有効と思われる「組織外-自発的学習」について,先行研究をサーベイするとともに,事例研究を通じて,フレームワークの有効性(非自発的学習のデメリット)について確認できた.今後は,特に「組織外-自発的学習」が製品事故やリコール低減に結びつくメカニズム(要因)についても研究を行う.
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Causes of Carryover |
(1)調査出張ができず旅費支出が必要なかったため. (2)人件費(データ入力・資料整理)の必要性がなかったため. (3)複写費および通信費の必要性がなかったため. (4)新聞および雑誌について学内データベースを利用したため.
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Research Products
(1 results)