2019 Fiscal Year Research-status Report
The effect of corporate governance on R&D projects and innovation
Project/Area Number |
17K03964
|
Research Institution | Meiji University |
Principal Investigator |
西 剛広 明治大学, 商学部, 専任准教授 (10409427)
|
Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
|
Keywords | コーポレート・ガバナンス / ファミリー所有 / ヒンズー結合ファミリー / エージェンシー理論 / 社会情緒資産理論 / アスピレーション・レベル |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、インドと日本におけるコーポレート・ガバナンスとR&D投資の関係を考察した。インドのコーポレート・ガバナンスでは、ヒンズー結合ファミリー(Hindu undivided family)所有のR&D投資の効果について、昨年度同様に研究を進めた。社会情緒資産理論を援用しながらファミリー所有やファミリービジネスのR&D投資に与える影響を分析した。分析の結果、高リスク環境において、R&D投資に正の影響を与えることが示され、ファミリーの企業への心理的結びつき(psychological attachment)や社会情緒資産がファミリーにリスク選好の行動をとることが明らかにされた。 他方において、日本のファミリー所有がR&Dに与える影響についても分析を行った。行動エージェンシー理論をもとに、ファミリービジネスが企業のリスク行動や外部環境に対するレジリエンスへの影響を考察した。Levinthal and March(1981)やBaumら(2005)のモデルをもとに、アスピレーション・レベル【Aspiration level:意思決定者が満足する最小の成果(Schneider, 1992; 佐々木,2017)】を測定し、低アスピレーション・レベルにおいてファミリー所有企業のR&D投資が増加することが確認された。すなわち、厳しい状況のリスクをとるなど、ファミリービジネスのレジリエンスが示されたのである。以上のように、本研究では、インド、日本において、ファミリー所有には企業のリスクテイキングやレジリエンスを喚起する可能性があることをとらえることができた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2019年度、次の2つの点から研究を進展させることができた。まず、ファミリー所有やファミリー出身の経営者のリスク行動やレジリエンスに与える影響を考察した。分析にR&D投資の関係を組織スラックとの関係でみることにより、どの程度、企業が効率的にR&Dへ投資しているのか把握することができ、より精緻な分析が可能となった。次に、日本のファミリー所有がR&Dに与える影響に関して、アスピレーション・レベルの概念を援用した。低アスピレーション・レベルでファミリー所有企業がR&D投資に正の影響があることが示され、ファミリービジネスが企業の探索行動やレジリエンスに与える影響を把握することができた。このアスピレーション・レベルでの分析は、ファミリービジネスの探索と深化の探求に貢献しうるものと期待している。 しかし、研究自体は進んだ一方、論文刊行など研究成果の公表が遅れた。2020年度中に成果を収めた研究論文の刊行を目指している。
|
Strategy for Future Research Activity |
次の2つの方向で研究を進める方向である。まず、日本とインドのコーポレート・ガバナンスやファミリービジネスのイノベーションへの影響を比較していく。2019年度になり ようやく、日本とインドのガバナンス比較をファミリービジネスの点から考察する基礎が整った。現在の課題は、対象となる企業群のデータや前提となる理論が異なることである。インドのヒンズー結合ファミリー企業のデータと日本のファミリー企業では歴史的経緯が異なり、2つの企業群のデータでファミリービジネスを比較することは難しい。整合性をとるためにどのような調整が必要か検討中である。また、理論に関してもインドのガバナンス分析では社会情緒理論を援用する一方で、日本の分析では行動エージェンシー理論を用いるなど、理論的基礎も同一なものにする必要がある。なお、2019年度にとらえることができたアスピレーション・レベルにもとづき、所有権構造と企業の探索行動の関係についても分析をしていく予定である。
|
Causes of Carryover |
計画していた国際会議の参加を取りやめた。さらに、成果の公表の遅れにともない、研究年度を1年延長することを決断したため、次年度の研究遂行と成果公表に伴う費用を確保することになり残額が生じることとなった。
|