2017 Fiscal Year Research-status Report
アセアンと中国の日系自動車メーカーの3D技術による開発と金型の深層の現地化の研究
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17K03981
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Research Institution | Kansai University |
Principal Investigator |
朴 泰勲 関西大学, 商学部, 教授 (50340584)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | アセアン自動車産業 / 深層の現地化 / 3D技術 / 日系自動車メーカー |
Outline of Annual Research Achievements |
アセアン自動車産業の調査対象として初年度は、フィリピンの自動車産業に注目し、現地調査を行った。フィリピンの自動車産業はアセアンの中でも後発組に分類され、自動車産業の基盤技術である金型と部品産業の製品開発の現地化も遅れをとっている。今回の調査はマニラから約1時間半離れているラグーナ工業団地にある日系自動車部品メーカーを対象に金型調達と3D技術による開発の現地化について調査した。調査結果で明らかになった内容は、以下の通りである。 フィリピンの自動車の生産台数は年間約20万台で少なく、自動車の基幹部品であるパワーステアリングの開発の現地化に関するニーズはあまり高くないので、金型も日本からの調達がほとんどであることが明らかになった。しかし、今後国内の市場規模の拡大が見込まれている点を考えると、日系企業は開発と生産の深層の現地化に関する大きな課題を抱えていることが分かった。今回の調査では急激な賃金の上昇が起きているインドネシアやベトナムに比べ、フィリピンの賃金の上昇率が際立って低いことも明らかになった。こうしたことから、労働力集約的な部品であるワイヤーハーネスを生産する部品メーカーの場合は、フィリピンに大規模工場を有しており、生産の現地化も進んでいることが明確となった。また、ワイヤーハーネス用のコネクターなどの金型の現地調達が徐々に増えていることが浮き彫りになった。さらに、これらの企業の外注先は日系企業で、フィリピンの現地部品メーカーからの調達が極めて少ないことが明らかとなった。将来、アセアン域内の関税が撤廃されれば、フィピンの自動車産業はタイやインドネシアからの輸入車の増加により衰退に追い込まれる可能性があることが分かった。 今回の調査をベースに多国籍企業研究学会の関西部会や韓国の海洋ビジネス学会に報告し、現在論文として執筆中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度はフィリピンの調査が一定レベルで進んだうえ、アセアン域内の生産システムのネットワークと部品調達の現地化に関する概要を把握することができた点で、当初の計画通りに研究が進んでいると思われる。また、フィリピン、タイ、インドネシアなどに進出している日系企業の開発の現地化と関連するマクロデータの収集方法について一定の進展があった。既存の官公庁のウェブサイトでは大量の特許データのクロス検索が困難であったが、新しくできたグーグルパテントという特許情報の専門サーチエンジンを用いて詳細な特許データのクロス検索ができるサービスを見つけた。しかし、グーグルパテントで公開されている情報の入力に時間がかかり過ぎて、当初計画していた統計分析が進まなかったが、情報の収集と入力に大幅な労力を削減できる特許情報のプラットフォームを提供している会社のサービスを見つけることができた。このようなサービスを利用することで、2018年は統計分析に一定の進展があると思われる。 今年の計画にあった中国調査については、訪問先の確保であまり進展がなく、今後も難航することが予想される。この背景には、近年中国における外資系と民族系の競争が激化し、企業が外部の訪問調査を受け入れる余裕があまりなくなったことがある。そのため、中国調査ができるように、中国研究に長年取り組んできた研究者と組んで調査概要と内容をより具体化し、中国に進出した日系企業の担当者の興味を惹きつける研究計画書を中国の日系企業に送付する必要があると思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
2018年はタイやインドネシアの日系自動車メーカーの現地化に関する調査を進める予定である。そこで、研究で協力できる企業を確保し、現地の子会社と日本の本社を訪れてインタビュー調査を進めていく。また、深層の開発の現地化に関する研究を進めていくためには、日本の本社と現地の子会社の間での技術共有と特許の活用に関する戦略についても調べる必要がある。そのため、グーグルパテント検索サイトで日系企業がアセアンでどのように現地で技術開発をし、現地で特許を取っているのかに関するマクロデータを収集する予定である。この際に、日本の特許庁が提供しているデータとアセアン各国や中国のデータを用いて国際比較をし、統計分析を行うことで仮説を具体化する作業を進めていく。現地子会社の技術の現地化による進化過程に関する分析も加えるため、統計分析では、時間軸を反映させたパネルデータによる多変量分析に焦点を当てる予定である。パネルデータの分析をする際に、計量分析に詳しい研究者と組み、重要な変数の特定やモデルの精緻化に取り組むことを計画している。 さらに、インドネシアの調査については今年現地の子会社の訪問調査に関する許可が得られる見通しが立ったので、ジャカルタやその周辺の工業団地への聞き取り調査を進める予定である。タイの調査は既に過去の調査記録とデータがあるので、それをさらに深掘りするような形で進めていき、アセアンの日系自動車メーカーと部品メーカーの深層の現地化に関する全体像を一定レベル把握できるようにする。
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Causes of Carryover |
今年度の調査予定であった中国調査が企業訪問の受け入れ先が見つからず、調査できなかった分が予算消化をできなかった主な理由として上げられる。2018年度は中国調査を実現するため、友人や研究協力が可能な研究者に依頼しながら、また、直接日本の本社に電話やファックスでインタービュー調査への協力依頼をする。また、2018年はアセアンや中国の日系自動車の子会社の開発の現地化と関連する特許取得について調べるために、資料収集に予算を多く配分する予定である。収集したデータの入力にも長い時間が予想されるため、入力作業の外部委託も進める。
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