2018 Fiscal Year Research-status Report
アセアンと中国の日系自動車メーカーの3D技術による開発と金型の深層の現地化の研究
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17K03981
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Research Institution | Kansai University |
Principal Investigator |
朴 泰勲 関西大学, 商学部, 教授 (50340584)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | アセアン自動車産業 / 深層の現地化 / 自動車部品メーカー / 金型の現地化 / 3D技術 / サプライチェーン |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度はマレーシアとシンガポールの調査を行った。マレーシアの自動車産業は国産ブランドのプロトンがあるが、近年市場シェアが下落しつつけ、ダイハツ工業とマレーシア資本が合弁で設立したプロドゥア社が市場シェアを伸ばしているのが現状である。しかし、マレーシアは近年アセアンの市場統合の進展により、自動車に対する関税が撤廃され、輸入車が増える一方で、賃金の上昇と国内市場の停滞から、マレーシア全体の自動車生産は縮小傾向にある。今回、セランゴールのハイテク工業団地にある日系自動車部品メーカーを対象に調査を行った。パワーステアリングを生産している会社の場合、1990年にマレーシアに進出して徐々に生産台数を伸ばしてきたが、近年インドネシア市場の急速な成長により、部品生産の一部がインドネシアの子会社へ移管されたため、工場の生産規模が縮小傾向にある。また、インドネシア向けのオートバイ部品も生産しており、将来的に主要なパワーステアリング部品とオートバイの部品の生産をタイとインドネシアに集約する計画である。また、ベアリングとECUなどは日本から輸入した半製品を国内で少し付加価値をつけるパススルー部品として生産しており、まだ現地化は進んでいなかった。金型の多くは日本と中国から調達しており、国産金型の調達はまだ進んでいないことが分かった。 同社の工場の生産ラインでは女性の比率が高く、しかもほとんどがインドネシアから出稼ぎで来ているワーカーである。マレーシアのワーカーに比べて、賃金が安い上、言語上もほとんど通訳なしで意思疎通ができる点から、インドネシアのワーカーの採用が増えている。また、マレー海峡の向こう側にあるインドネシアの地域は距離的に近く、文化的にも類似性が高いことから、将来もインドネシアのワーカーを継続的に採用していく予定であることが明らかになった。今回の調査をベースに現在論文を執筆中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度はマレーシアとシンガポールの調査が進んだ上、インドネシアとマレーシアにおける部品調達と金型調達の国際分業が把握できた点と、膨大な特許データの収集と入力の自動化ができる新しいプログラムの開発に成功した点で、当初の計画通りに概ね研究が進んでいると思われる。特に、インドネシアへの自動車産業の集積が進展している点が明らかになり、今後の調査につなげる糸口となった点で評価できる。また、グーグルパテントという特許専用のサーチエンジンを用いて、金型の技術開発に関するデータを集める方法を新しく習得した。特に、今回パイソン(Python)のセレニウムモジュールを用いて自動的に膨大な特許データを集めるカスタム化されたプログラムの開発に成功した。これまで特許データの分析において最も大きなハードルであった膨大なデータの収集と処理が、今回のカスタム化されたプログラムの開発でできるようになったため、研究に大きな進展があったと考えられる。統計分析に必要な分析の枠組みについても探索的な研究が行われ、まとまりつつある。特に、国内外のジャーナルに掲載できるレベルまで持っていくためには、今後国内の学会で積極的に報告していく必要があると思われる。 2018年度の課題であった中国調査は今年も訪問先の確保で難航し、調査ができなかった。中国の自動車産業は今年に入ってから生産と販売台数が落ちてきており、金型の生産も縮小傾向にある。ただし、韓国の大邱市の金型産業に関する調査に成功しており、将来中国に進出している韓国系の金型企業の調査ができる人的ネットワークが形成された点からすると、新年度の中国調査の実現可能性がある程度見えてきたと評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は科研の最終年度であるため、主に論文の執筆とこれまでの現地調査の総まとめに主眼点を置く。これまでフィリピン、マレーシア、シンガポールの調査ができたが、インドネシアと中国の調査がまだできておらず、可能であれば、今年は両国の調査を実現し、アセアンの金型の現地化と研究開発の深層の現地化に関する全体像を把握できるように力を注ぐつもりである。特に、インドネシアのダイハツ工業の部品メーカーの現地化に関する調査を具体化し、ジャカルタからバンドンまで広がっている日系自動車部品メーカーの産業集積について考察する計画である。その後、これまで蓄積してきたインタビュー調査のデータに基づいて仮説を導出する作業に取り組む。 さらに、特許データに基づいてアセアンの子会社と日本の本社の3Dデジタル技術の開発について詳細な統計分析を行う。また、日本の本社と現地の子会社が有する特許の発明家の詳しい情報も集め、海外の子会社への技術供与と人的構成に関するマクロ的なトレンドを把握する。これらの企業内研究者と発明家が海外の子会社とどのようにネットワークを形成し、技術移転と金型の現地化を行なっているのかについて仮説を構築する。データとしては、主に5年間のデータをパネルデータとして集め、自動車産業全体の現地化の過程を時間軸で調べる。さらに、マイクロソフト・アカデミックという研究者の論文サーチエンジンを用いて、アセアンの子会社と日本の本社の企業内研究者の学術活動とネットワーク形成についても、今回開発したプログラムを用いてデータを集める。そして、最終年度の成果を発信するため、英文論文の執筆に取り組む。可能であれば、国内外の研究者とネットワークを作って共同論文を執筆し、海外のジャーナルに投稿する。そのため、国際学会にも参加し、報告できるように論文の完成度を高める。
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Causes of Carryover |
今回、中国調査とインドネシアの調査が実現できなかったため、少額ではあるが、次年度使用が生じた。2019年度は追加調査や論文の国際学会への発表を計画しており、予算の全額使用の目処は立っている。また、収集したデータの入力には長い時間がかかる可能性があるので、それを外部委託する予定である。
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