2018 Fiscal Year Research-status Report
企業と顧客のくちコミの価値共創:ネガティブくちコミのサービス・リカバリー
Project/Area Number |
17K03997
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Research Institution | Chiba University of Commerce |
Principal Investigator |
仁平 京子 千葉商科大学, サービス創造学部, 准教授 (70714492)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | くちコミの価値共創 / マイナスの価値共創 / ネガティブくちコミ(NWOM) / 製品とサービスの失敗 / 苦情行動 / サービス・リカバリー / リカバリー・パラドックス / オンライン・レピュテーション・マネジメント |
Outline of Annual Research Achievements |
現代の日本社会では、ソーシャル・メディアの広範囲な普及により、経済取引において企業に対して相対的に不利な立場であった消費者が、企業に対する対等性の回復、企業と消費者との情報格差の縮小、消費者主権の確立をめざす行動や抗議を行うことを可能にしている。 そして、近年の消費者問題では、情報発信する若者消費者による企業の「ネガティブくちコミ(NWOM)」や「ネガティブレピュテーション(ネガティブ評判)」の拡散するスピードが増している。さらに、オンラインメディアでの誹謗中傷や風評被害、ネット炎上などのブランドリスクが蔓延し、「オンライン・レピュテーション・マネジメント」により、オンライン上のNWOMのチェックや規制の重要性が増している。 このような「レピュテーションリスク」とは、企業価値が減少するリスクであり、その対象領域は、商品やサービス、環境、人事・労務関係、企業の社会的責任(CSR)、風評被害、誹謗中傷など広範囲に及ぶものである。アメリカやヨーロッパなどのリスク管理の先進国では、レピュテーションを企業の重要な資産の一つとして捉え、レピュテーションに関するリスクを管理して、企業価値を向上しようとする動きが高まっている。そのため、レピュテーションリスクの管理は、企業のNWOMやネガティブ情報の連鎖の予防に繋がるといえる。 本研究では、オンライン上での情報発信する若者消費者によるNWOMやネガティブレピュテーションの情報の拡散に対応するために、「製品とサービスの失敗」による苦情行動から生じるNWOMやうわさ(噂)、デマゴギー、フェイク情報などの連鎖によるレピュテーションリスクを検討することを目的とする。そして、本研究では、「サービス・ドミナント・ロジック(S-Dロジック)」における企業と顧客の価値共創の分析視点から、企業と顧客の「マイナスの価値共創」の可能性を検討する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
近年では、企業の「ソーシャル・メディアの活用戦略」が重要性を増しているにもかかわらず、ネット炎上に対する予防策や対処法についての企業内マニュアルが対応できていない現状にある。本研究では、公益社団法人消費者関連専門家会議ACAP(エイキャップ)を調査対象に、オンライン・レピュテーション・マネジメントの取り組みに関するインタビュー調査を行い、次年度の実証研究に向けて仮説の構築やインタビュー調査企業の選定を行った。 そして、本研究では、インターネット上で商品の購買者や消費者が、消費者発信型メディアを通じて企業の不祥事を攻撃的・行動的に情報発信する若者消費者の「インターネット告発」の事例に着目し、製品購買後の製品とサービスの失敗による消費者(受益者)の苦情行動から生じるネガティブくちコミ(NWOM)の情報の拡散を検討した。 第一に、本研究では、インターネット上でNWOMを情報発信する若者消費者に焦点を当て、現代のインターネット上のNWOMのオープンニュース化、NWOMやうわさの情報の真偽と苦情行動の先行事例を検討し、NWOMの情報価値の高さとNWOMの情報発信動機を検討した。 第二に、企業は、「オンライン上の評判はコントロール不可能要因である」という前提のもとに、企業の評判形成を戦略的に考える必要性がある。そのため、企業は、オンライン上の炎上の芽を摘むために、NWOMやうわさ、フェイク情報、ネガティブサイト、ネガティブワードなどの評判監視、つまり、NWOMの情報の網の仕組みの構築と対策が必要である。 第三に、企業は、情報発信する若者消費者とソーシャル・メディアの特質を理解して、ネット炎上への予防策や対処法のための企業内マニュアルを構築し、オンライン・レピュテーション・ マネジメントにより、オンライン上のネガティブ情報や風評被害などのブランドリスク管理を検討する必要性がある。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の検討課題として、以下が挙げられる。第一に、実証研究に向けた課題として、製品購買後の製品とサービスの失敗による若者消費者の不満感情レベルとネガティブくちコミ(NWOM)の情報発信動機、ブランド・ロイヤルティとの関係を検討する。第二に、企業は、オンライン・レピュテーション・マネジメントにより、オンライン上の企業の評判管理を戦略的に行うことにより、企業の「ブランドリスク・マネジメント」の維持・構築を図る必要性がある。 文献サーベイでは、消費者の苦情行動に対する企業の初期対応や広報戦略により顧客不満足を縮減させるために、製品とサービスの失敗に対するサービス・リカバリーやリカバリー満足、リカバリー・パラドックス、サービス・ドミナント・ロジックなどの諸概念を適用し、くちコミ研究とサービス・マーケティング研究の融合を検討する。そして、企業のオンライン・レピュテーション・マネジメント構築に向けた苦情行動研究へのアプローチとして、社会心理学の原因帰属や攻撃行動などの諸概念を適用して考察を行う。 定量調査と定性調査では、インターネット上でNWOMを情報発信する現代版プロシューマーに着目し、大学生などの若者消費者とシニア消費者を比較調査対象に、ソーシャル・メディア上でのNWOMの情報発信動機、消費者の不満感情の吐露、消費者の不満反応レベルなどのアンケート調査とグループ・インタビューを実施する。そして、公益社団法人消費者関連専門家会議ACAP(エイキャップ)の会員企業を中心に、食品メーカーと非食品メーカーの消費者問題や苦情対応、オンライン・レピュテーション・ マネジメントに関する企業インタビュー調査を実施する。 これらの研究成果は、日本経営診断学会2019年度関東部会や日本経営診断学会第52回全国大会、日本消費経済学会第44回全国大会などで学会発表を行い、学会誌に論文投稿を行う予定である。
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Causes of Carryover |
本研究では、利用するくちコミメディアやメディアの情報源と信頼度に対する若者消費者とシニア消費者との比較調査を実施するにあたり、分析対象のサンプル数を増やしたためである。
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Research Products
(9 results)