2021 Fiscal Year Research-status Report
企業と顧客のくちコミの価値共創:ネガティブくちコミのサービス・リカバリー
Project/Area Number |
17K03997
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Research Institution | Chiba University of Commerce |
Principal Investigator |
仁平 京子 千葉商科大学, サービス創造学部, 准教授 (70714492)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 老舗企業 / 三方よし / SDGs的経営 / 企業不祥事 / 消費者主権 / NWOM(ネガティブ・くちコミ) / リスクマネジメント / リスク・コミュニケーション |
Outline of Annual Research Achievements |
日本社会におけるSNSの普及は、企業と消費者との情報格差の縮小や企業に対する消費者の対等性の回復による「消費者主権」の確立を促し、消費者は、消費者発信型メディアを通じて、企業に対して積極的に苦情行動や抗議を行うことを可能にしている。 近年の日本の「老舗企業」の不祥事報道では、SNSの消費者の「ネガティブくちコミ(NWOM)」や風評被害、ネット炎上など企業のブランドリスクが蔓延し、オンライン・レピュテーション・マネジメント(ORM)により、SNSのNWOMの事実の真偽に対するファクトチェックの必要性が求められている。その一方で、ネット炎上への計画的な事前予防型の対処策についての企業内マニュアルがないのが現状である。 従来の日本の老舗企業は、「三方よし」の経営哲学による「SDGs的経営」を指向し、企業と顧客の「プラスの価値共創」の関係性を構築してきた。しかし、企業不祥事やトラブル、事故の発覚は、企業と顧客の「マイナスの価値共創」や「価値共破壊」の関係性を招くリスクを示唆している。 本研究では、企業不祥事発生時の危機対応として、SNSの消費者のNWOMやネット炎上に対処するために、「リスクマネジメント」やリスク社会学、広報論の視点から、老舗企業の「リスク・コミュニケーション」やクライシス・コミュニケーション、危機管理広報の先行研究を検討した。 第一に、本研究では、消費者発信型メディアによるNWOMの情報的影響力に着目し、日本の老舗企業の企業不祥事における消費者のNWOMやネット炎上について事例研究を通じて検証した。第二に、現代のリスク社会において、老舗企業は、「不祥事の事後対応を含めて最悪のリスクを計画的に想定し、事前予防型の危機管理の実践的シミュレーションによる対策が必要である」という前提のもとに、リスク・コミュニケーションや危機管理広報の概念を全社的に導入する必要性がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
申請時の研究計画では、老舗企業への企業インタビュー調査やフィールドワーク調査、学会参加のために、旅費交通費や企業インタビュー調査などを予算として計上していた。しかし、コロナ禍における新型コロナウィルス感染症の全国的な曼延、緊急事態宣言の発令などにより、調査対象の老舗企業への出張による企業インタビューやフィールドワーク調査の実施が困難な状況にあった。 そのため、本研究の研究手法を再検討し、サービスマーケティングやリスクマネジメント、老舗企業に関する文献調査や事例研究、インターネット・リサーチなどによる二次データの分析へと研究計画を変更した。 今年度は、前年度の研究成果を踏まえて、地域の老舗企業への企業インタビュー調査や消費者調査などの実証研究の実施を予定している。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究では、今後の検討課題として、以下の4点が挙げられる。第一に、老舗企業の不祥事により不満を抱えた顧客のロイヤルティの損失を測定するために、NWOMの影響度を考慮する必要性がある。SNS上のNWOMの情報発信動機や消費者の不満感情の吐露を明らかにするために、日本人消費者と中国人消費者、アメリカ人消費者を比較調査対象に、消費者の「国民性(民族性)」とNWOMの情報発信動機の相関関係について、国際比較調査を実施して検証する。 第二に、老舗企業は、災害時における企業の事業活動の継続を図る事業継続計画(BCP)の策定率が高いため、危機意識が高いことも老舗企業の特質の一つである。筆者は、日本の長寿企業や老舗企業の「リカバリー力」に着目し、企業リスクやブランドリスクに対する強さの源泉や消費者のブランド・ロイヤルティについて、製造業とサービス業のリカバリー戦略の特質の違いを検証する。 第三に、日本では、危機管理広報業務の実務のニーズとして多くの書籍が出版されているが、「リスク・コミュニケ-ション」や「クライシス・コミュニケ-ション」、「危機管理広報」の学術書や学術論文は限られている。そして、海外では、SNSのクライシス・コミュニケ-ションの研究が進んでいるため、日本におけるSNSのクライシス・コミュニケ-ションの理論構築と成功事例・失敗事例について分析する。 第四に、老舗企業の不祥事における製品の「リコール(欠陥商品の回収)」とクライシス・コミュニケ-ション、クライシス・コミュニケ-ションの危機対応戦略としての「謝罪」、緊急時の謝罪会見における「メディア・トレーニング」の重要性についても検証課題とする。 これらの研究成果は、日本経営診断学会などで学会発表を行い、学会誌や大学紀要などに論文投稿を行う予定である。
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Causes of Carryover |
本研究では、くちコミ研究とサービス・マーケティングの融合を目指して、サービス・ドミナント・ロジック(S-Dロジック)における企業と顧客の価値共創の分析視点から、企業と顧客の「プラスの価値共創」や「マイナスの価値共創」の二面性について理論構築を検討することを目的とする。 そして、本研究では、企業と顧客の「プラスの価値共創」を前提としてきた従来のサービス・ドミナント・ロジックの研究に、マイナスの価値共創としての「共破壊」の概念へと研究対象を拡張することも意図している。 本研究では、研究申請時の研究計画では、企業不祥事を経験した創業100年以上の長寿企業や老舗企業に対する企業インタビュー調査やフィールドワーク調査などを予算として計上していた。しかし、コロナ禍における新型コロナウィルス感染症の全国的な曼延、緊急事態宣言の発令により、調査対象の長寿企業や老舗企業の所在する地域への出張による企業インタビューやフィールドワーク調査の実施が困難な状況にあった。そのため、研究手法を再検討し、文献調査や企業不祥事の事例研究、二次データの分析に変更を行った。
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Research Products
(5 results)