2018 Fiscal Year Research-status Report
共創活動が創出する社会的価値-消費者参加型プラットフォームの新たな側面-
Project/Area Number |
17K04023
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Research Institution | Osaka Jogakuin College |
Principal Investigator |
青木 慶 大阪女学院大学, 国際・英語学部, 准教授 (50761045)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | イノベーション / 共創コミュニティ / リードユーザー / C to Cビジネス |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、消費者参加型の共創活動から派生する、社会的価値の可能性について明らかにすることである。平成30年度は、前年度に着手したAppleの顧客参加型コミュニティの調査を継続し、同コミュニティ参加者(n=61)に質問票調査を実施した。その結果、前年度の定性的調査で得られた結果(Appleではリードユーザーをコミュニティに集めて、イノベーションを創発し、教育の質の向上という社会的価値を創出)が定量的に実証された。 次に、2つ目の共創事例として、ハンドメイド作家のコミュニティを取り上げることにした。C to Cビジネスのプラットフォームの発展により、同市場は9,000億円規模にまで拡大している。個人の遊休資産(能力や時間)を有効活用するひとつの有効な手立てとして確立されつつあり、その経済的・非経済的価値について検証することは、本研究に有用な示唆を与えるものであると判断された。コミュニティ運営者への聞き取り調査から、参加者らがC to Cビジネスを通じて、売上だけでなく他者からの認証や、やりがいなどの便益を得ていることが示唆された。それらは、ポジティブ心理学で提示されたウェルビーイングを構成する5つの要素(Positive emotion, Engagement, Relationships, Meaning, Accomplishment:PERMA)と近似するものであった。そこで、本研究ではウェルビーイングの尺度を用いて、C to Cビジネス参画者が享受する非経済的価値を測定することにした。 ハンドメイド作家(n=185)と、18歳から74歳の男女(n=1,000)を対象に質問票調査を実施し、比較分析を行った。その結果、ハンドメイド作家は有意にウェルビーイングの水準が高いことが示され、共創活動から、経済的価値のみならず社会的価値が創出されていることが示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成30年度は、定量的調査の実施と、研究成果の発表を通じて本研究に有用な示唆を得ることを、主な活動として位置付けていた。予定通りに調査を実施し、さらに平成31年度に予定していた全国調査(n=1,000)を前倒しで実施した。この全国調査では、C to Cビジネスへの参画意向などを確認するとともに、ブランド体験(ブランドは回答者が与えられた60ブランドから選定)の共創に関する調査を実施した。 Appleの事例について、8月にアメリカで開催されたInternational Open and User Innovation Conferenceと、10月に東京で開催された日本マーケティング学会のカンファレンスで発表し、研究者および実務家から有用なフィードバックを得た。また、ブランド体験の共創に関する調査結果を、2月にアメリカで開催されたAmerican Marketing AssociationのWinter Conferenceでポスター発表し(アメリカの共同研究者との共著)、今後の研究の方向性に有用な示唆を得た。 以上のことから、当初予定していた活動は概ね達成できたものと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
Appleのコミュニティの事例から、企業と顧客の価値共創を実現する要因が示唆された。 (1)共創活動を通じて、個人の能力が向上すること (2)共創活動が、社会的価値の創出に寄与すること (1)を実現する際に、他者との関係性や、企業との関係性が大きく影響する。また(2)について、経済的価値の創出が最終ゴールであるならば、究極的には顧客の経済負担が増すことを意味し、両者の利益が相反する。これに対して、社会的価値(Appleの事例では教育の変革)の創出が最終ゴールであるなら、両者の利益が一致する。これは、CSV(Creating Shared Value)の概念が提示されたものの、その実現に成功している企業が稀少であるという現状に一石を投じるものである。 ハンドメイド作家を対象にしたC to Cビジネスの調査においても、上述の(1)が確認された。また、(2)と関連して、C to Cビジネスの参画者が、経済的な利益を得るのみならず、持続的幸福度を増していることが示唆された。これらはC to Cビジネスの発展が、社会的幸福の増大に寄与しうることを示す、重要な発見である。平成31年度は、他のプラットフォームに拡張し、一般化について検討する。また研究成果を対外発表することで、理論を精緻化する。
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Causes of Carryover |
論文投稿を2本予定していたが、1本は投稿時期が平成31年度になったため。
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Research Products
(6 results)