2020 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
17K04036
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
松田 康弘 東北大学, 経済学研究科, 准教授 (70451507)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 資本予算 / 経営者の能力 / 経営スキルの標準化 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は分権制組織において新製品開発プロジェクトの資本予算に関わる問題を研究したものである.先行研究においては,いわゆるアドバース・セレクション・モデルを用いたものが1980年代から用いられてきており,本研究もこれに依拠している.このモデルに基づいた資本予算の先行研究は,管理者が持つ私的情報の申告に応じて,投資プロジェクトの可否のと予算額を決めるものである.そこでは,管理者の持つ私的情報は1次元の実数値空間で仮定されてきた.これに対して,本研究では管理者・経営者を経験豊富なタイプと経験は少ないが新製品を開発する能力の高いタイプの2種類に分類し,新製品群と既存製品群について各タイプのマネジメント・コストを仮定した.これらのコスト変数は管理者の私的情報であるが,この設定のもとで,効率的な資源配分が均衡でなされる条件をまず示すことができた.また,この設定のもとでは標準的なアドバース・セレクション・モデルの制約条件に新たな制約条件(CIC条件)が追加されることを示した.CIC条件が効いている場合には異なる解法で均衡を導出する必要があり,新製品開発プロジェクトの過小投資につながることを示した. 次に,コスト変数の特性による比較静学をおこない,どのような変数の変化が新製品プロジェクトの資源配分を改善するかを示した.また,経験の豊かなタイプの管理者について正の留保利得を仮定し,相殺インセンティブがどのような影響をもたらすかを分析した.十分に高い留保利得のもとでは新製品開発に効率的な資源が配分されるという相殺インセンティブの典型的な結果となったが,CIC条件がこれを阻害することを示した. 本研究の結果はディスカッション・ペーパーとして公開(URL: http://ssrn.com/abstract=3835815)しているが,ハードル・レートの分析が終了次第査読誌への投稿を予定している.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
主たる遅れの部分は,資本予算で設定されるハードル・レートの設定に関わる問題の分析にある.本研究では管理者のタイプを2種類と仮定しているものの,既存製品群に関するマネジメント・スキルの効率性と,新製品を開発しようとしている製品群に関するマネジメント・スキルの効率性についての合計4つのタイプ変数が仮定している.それぞれの製品群についてプロジェクトが実行される可能性がある.この設定のもとでハードル・レートを分析するには関数形を特定する必要があったが,分析すべき均衡が7種類あり,そのうちいくつかの均衡とハードル・レートの計算において,関数形を特定してもなお計算結果は極めて複雑なものになった. さらに2020年4月末の身内の不幸とその事後処理で仙台と関西を何度も往復必要が生じたこと,そしてコロナ禍による各種校務の増加により,2020年度は研究時間を十分に確保することができなかったため,当該年度の予算を2021年度に繰り越すこととなった.
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の分析は,資本予算において設定されるハードル・レートを明示的に解くプロセスが残されている.最終年度においては,ハードル・レートをうまく計算できるよう設定を修正するか,数値例によって重要な変数による比較静学をおこなえるよう工夫する必要がある.重要な変数はマネジメント・スキルの標準化の度合いの代理変数でもある管理者の留保所得水準等が考えられる. こうした分析の後,分析結果が実証研究にどのように貢献し得るかを検討し,資本予算や新製品開発に関する研究に対する貢献をまとめ,論文を完成させる予定である. これらの課題をクリアした後,査読誌に投稿して本研究課題の完了としたい.なお,これまでの研究の成果は(オンラインのものも含めて)研究会レベルでは発表しているものの,2019年度末に始まるコロナ禍により対面での学会発表は困難な状況であったが,オンラインであれば機会は回復しつつある.学会発表の機会も探りつつジャーナルへの投稿を目指す予定である.
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Causes of Carryover |
下記備考欄にあるとおり,次年度に繰り越したため.
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Research Products
(1 results)