2017 Fiscal Year Research-status Report
Empirical studies of the impact of corporate information disclosure on capital market
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17K04054
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
音川 和久 神戸大学, 経営学研究科, 教授 (90295733)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 企業情報 / 開示プロセス / 証券市場 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、情報技術(IT)の発達に伴う企業情報の開示の現状を踏まえながら、企業情報の多様な開示プロセスが会計情報利用者の意思決定や証券市場にどのような帰結をもたらすのかについて実証的な調査を行うことである。まず、決算短信や有価証券報告書などの開示書類がインターネットで開示された時刻を特定した上で、その周辺の株価や出来高の動向を分単位で追跡した。それによれば、決算短信がTDnetで開示された直後に大きな株価の変化と出来高の増加が生じる一方で、有価証券報告書がEDINETで開示された前後の期間において顕著な株価の変化や出来高の増加は観察されなかった。次に、決算短信が取引時間内または取引時間外に開示されたケースを比較すると、決算短信の開示に対する株価や出来高の反応は、取引時間外よりも取引時間内に開示されたほうが大きい。そして、証券取引の高速化を可能にするアローヘッドが稼働した後の期間において、決算短信の開示に対する株価や出来高の反応はより速く、より大きくなっていることが明らかになった。こうした分析結果は、会計情報がインターネットを通じて瞬時に伝播し、証券取引の高速化によって資本市場が瞬時に反応できる環境下において、資金や時間に制約のある個人投資家が不利な立場に置かれる可能性を示唆している。こうした事態を回避するため、個人投資家は短期ではなく長期の視点から証券投資を考えたり、自らが投資判断をするのではなく投資信託のファンド・マネジャーなど専門家に投資判断を委ねたりするなどの防衛策が考えられる。したがって、長期投資に役立つ会計情報の利用を探求したファンダメンタル分析や、ファンド・マネジャーと個人投資家の間に存在する情報の非対称性を改善するために実施される投資信託の財務報告の問題も、今後の重要な研究課題であることを指摘できる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
決算短信や有価証券報告書などの開示書類がインターネットで開示された時刻周辺の株価や出来高の動向を分析する課題については、2017年9月に開催された日本会計研究学会第76回大会の統一論題において研究報告と討論を行った。そして、研究報告の一部、特に出来高反応の分析結果について要約した論文を執筆した。それから、メディアによるニュース報道のあり方が会計情報の公表に対する投資家の反応にどのような影響を及ぼすのかを明らかにする課題については、その前段階として、メディアが決算短信発表直後にそのニュースをどのように報道しているのかを実証的に調査した。ニュース報道の有無、ニュース報道までの時間またはその文字数といった観点から、従来の紙媒体による新聞報道とインターネットによる速報ニュースの配信について、その決定要因を実証的に調査した。分析結果は、2017年9月に開催された日本会計研究学会第76回大会の自由論題で報告し、学会参加者との議論の中で、更なるブラッシュ・アップのための貴重なコメントを得ることができた。さらに、監査役会の会計・財務の専門性が高い企業では、高品質な情報開示が行われ、会計情報利用者である証券アナリストの利益予想を改善させることを示唆する分析結果を得た。以上のことを勘案すれば、研究活動はおおむね順調であると判断できる。
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Strategy for Future Research Activity |
1番目に、金融商品取引法に基づく有価証券報告書がEDINETを通じて開示された時刻周辺において顕著な株価や出来高の反応が観察できなかった点について、この分析結果は証券市場の平均的な反応を検証したものであり、サンプルの中には顕著な市場反応が生じているケースも少なからず存在する。したがって、どのような要因が市場反応の大小を規定するのかについて、更なる調査を続ける。2番目に、決算短信に対する市場反応は取引時間外よりも取引時間内に開示されたほうが大きくなる点について、この分析結果は米国市場を対象とした先行研究と異なる。したがって、なぜ日米で対照的な結果が得られたのか、その理由を探求する。3番目に、メディアによるニュース報道が会計情報に対する市場反応に与える影響を明らかにするため、決算短信の公表後にニュース報道があったケースとそうでないケースで、会計情報が株価に織り込まれるプロセスにどのような違いがあるのかを比較検討する。平成30年度は、こうした課題について更なる実証分析を行い、本研究課題の着実な推進を図っていく。
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