2018 Fiscal Year Research-status Report
Intersubjectivity and empathy in caregiver-child interaction
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17K04091
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
高木 智世 筑波大学, 人文社会系, 准教授 (00361296)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 子どもの相互行為能力 / 行為形成 / 会話分析 / 自閉スペクトラム症児 / トピックマーカー |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、人間が他者に向けて理解可能な社会的行為を産出し、働きかけの行為とそれに応じる行為の連鎖を生み出すことがいかにして達成されているのかを、とりわけ他者理解が原初的な仕方で実践されている現場、すなわち、乳幼児を参加者に含む相互行為場面の綿密な質的分析を通してそのメカニズムを明らかにすることを目的とする。この課題を進める上で、調査の焦点を適切に絞り込むことが重要である。その実行可能性や、成果として導かれる知見の重要性や深さなどを踏まえて、2017年度中に、1)幼児と養育者との相互行為において、「ーした」という過去の行為に明示的に言及することによって開始される協同的語り、2)日本語の助詞「は」を用いた「NP+は?」という形式の幼児の発話によって開始される連鎖、および、3)非定型発達児(自閉スペクトラム児)と養育者・支援者の相互行為における相互理解可能性、の3つを焦点とすることに決め、2018年度は、それぞれについて、事例を収集し、分析を進めてきた。 1)については、その成果を2019年度中に国際学術誌特別号へ投稿論文としてまとめ、現在、出版に向けて最終段階の修正をしている。2)については、現在事例の分析を進め、2019年6月開催の国際学会での発表に向けて成果の一部を取りまとめている。また、韓国語母語話者の研究協力者を得ることができ、韓国語を母語とする幼児と養育者の相互行為における「-nun」の使用との比較を含めることによって、日韓両言語においてトピックマーカーと呼ばれている言語形式を相互行為的に捉え直す試みも進めている。3)については、2018年度秋にその成果の一部を学術誌において発表した。この論文では、自閉スペクトラム児の一見不可解な発話は、「仮の参加枠組みの構築」という視点から自閉スペクトラム児自身にとっては理にかなったものとして理解可能であることを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2017年度の研究休暇期間中に研究計画を進める上での基盤を築くことができた。2018年度は、それを踏まえて、「研究実績の概要」に述べたように3つの焦点を定め、それぞれについて事例の収集、分析、成果の取りまとめを進めることができた。現在は、とりわけ上記の2つ目の焦点(子どもと養育者の相互行為における「NP+は?」という形式の使用)について分析を深めているところである。当初の予測より、はるかに重要な相互行為的機能を担い、子どもの社会化において重大な意味を持つことが見え始めているところであり、本年度中にさらに分析を深めて、国際学術誌への投稿の準備も進めているところである。最初の研究計画には含まれなかった新たな視点と切り口を見出したために予想外の展開もあったが、全体としてはおおむね良好な進捗状況である。
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Strategy for Future Research Activity |
2019年度は、「は」という助詞を使い始めた幼児が、まずは「NP+は?」という形式の発話においてこの助詞を多用するという現象について分析を深めることを通して、この発話の形式の相互行為的な働きと社会化における役割を明らかにする。また、この分析と並行して韓国語の相互行為場面における幼児の「-nun」の使用と比較することによって、それぞれの言語において「トピックマーカー」と呼ばれてきた「は」と「-nun」を会話分析的に捉え直し、その原初的性質と子どもの行為形成・社会化における役割を明らかにしたい。自閉スペクトラム症児と養育者・支援者との相互行為における相互理解可能性については、自閉スペクトラム症児を参加者に含むデータの収集が容易ではないという問題があるが、2019年度から自閉スペクトラム症児に関わる別の科研費課題の分担者になることにより、この問題の解決も見込まれ、これまでよりも研究を前進させることができると思われる。そもそも自ら働きかけの行為を産出することが極端に少ない自閉スペクトラム症児がどのように相互行為に参加し、(頻度として少ないながらも)働きかけの行為を産出する場合、養育者・支援者からの働きかけの行為に反応する場合のそれぞれの事例を収集して、分析を進めたい。2018年度までの方針と同様、上記のそれぞれの焦点について収集した事例のより精度の高い分析を試みるとともに、人間の相互行為能力の原初的性質の追究という壮大なテーマの中における位置付けという大局的見地も維持しながら研究を進めていきたい。また、2019年度は、分析を進める上で、相互行為における乳幼児の身体的資源の利用についてもさらに着目し、本研究の主たる目的である、「行為の理解可能性はどのように生み出され、達成されているのか」という問いについて、実例の詳細かつ厳密な分析に裏打ちされた研究成果を撚り合せ、統合していきたい。
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Causes of Carryover |
2018年度は、事例の収集・分析に集中し、海外での国際学会の発表は実施せず、旅費等が予定より低く抑えられたため未使用額が生じた。未使用額は、2019年6月に予定している国際学会発表に係る費用として使用を予定している。
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