2017 Fiscal Year Research-status Report
沖縄独立研究と琉球社会憲法の国家観―沖縄県人・県系人にみるトランスナショナリズム
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17K04100
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Research Institution | Seijo University |
Principal Investigator |
西原 和久 成城大学, 社会イノベーション学部, 教授 (90143205)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 沖縄(琉球)独立 / 琉球共和社会憲法 / 東アジア共同体 / トランスナショナリズム / ハワイ沖縄系移民 |
Outline of Annual Research Achievements |
科研費申請段階での研究目的の主眼は、①沖縄独立研究と琉球共和社会憲法の再検討に基づく新たな国家観の描写、②ハワイの沖縄県系人の社会意識の検討の2点であった。そのために初年度の研究計画は、(1)関連文献・資料の収集と検討(資料関係)、(2)沖縄およびハワイでの複数の関係者へのインタビュー調査(聞き取り関係)、(3)以上に基づく論文・著作の執筆(執筆関係)であった。 以上の実施のため、本年度は科研費による出張として、沖縄3回(なお他研究費でさらに3回沖縄調査を行っている)、ハワイ2回、および関連調査として複数の沖縄県系人がいるパラオでの聞き取り調査も行なった。なお、ハワイではオキナワン・フェスティバルに参加し、ラジオ出演でこの調査のことを語り、さらに東京では、関連インタビュー実施のため東京琉球館や「東アジア共同体・沖縄(琉球)研究会」の会合などにも参加し、そこで琉球独立論を主張している松島泰勝氏らにもお会いできた。 さて、(1)資料関係では、沖縄県立公文書館や那覇や宜野湾の古書店などで資料収集を行ない、ハワイでもハワイ沖縄センターなどで資料取集に当たり、以上で得た資料を含め文献の読み込みを進めた。(2)聞き取り関係では、那覇で琉球共和社会憲法案の執筆者、川満信一、仲宗根勇、高良勉の各氏にお話を伺い、さらに沖縄関連の著書を出している與儀秀武氏(沖縄タイムズ)や新垣毅氏(琉球新報)らにもお会いした。また伊江島にも赴いて、阿波根昌鴻の足跡に関して聞き取り調査を行ない、ハワイでは上原進介牧師ほか、強制収容も経験した沖縄系移民からもお話を伺えた。最後に(3)執筆関係では、ソウルを含めて国際会議や学会で複数回の関連報告を行ない、それらと密接に関連する形で複数の論文を執筆し、さらにそれらの一部をまとめる形で『トランスナショナリズム論序説――移民・沖縄・国家』を執筆し、3月に出版した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
上記の「研究実績の概要」で述べた点と密接に関係するが、本研究の初年度に関して自己点検を行なうとすれば、(1)資料関係、(2)聞き取り関係、さらに(3)執筆関係のそれぞれで、たいへん大きな成果があったと判断することができる。とくに(2)聞き取り関係では、琉球共和社会憲法案の執筆者たち、および沖縄(琉球)独立を主張する方々、さらには沖縄の歴史と展望を論じている著者たちにお会いして聞き取り調査を行なうことができた点は、自己評価としては、高いスコアを付けることができる。なお、当初の計画では明示的ではなかったが、沖縄独立論へと歴史の歩みを進めたかつての社会運動家たちの足跡を辿ることができた点も本研究にとっては特筆すべき点であろう。この点は、(3)執筆関係の作業にとってたいへん有意義であった。 なお、そうしたインタビュー調査で明らかになった新たな点は、琉球共和社会憲法の執筆者たちや沖縄(琉球)独立論者たちが、現在は「東アジア共同体」の構想や形成の問題に非常に大きな関心を寄せ、そして実際にも活発に活動しておられる方が複数存在するという点であった。とくにそうした人々が「東アジア共同体・沖縄(琉球)研究会」に結集する形で活発に研究活動を繰り広げている現場にしっかりと向き合うことができた。 しかしながら、若干の課題もまた見いだせた。それは、まず、ハワイの沖縄系移民におけるコスモポリタニズム関係の調査研究が十分に展開できなかった点である。具体的には牧師であった比嘉静観関係の調査が――ハワイで牧師関係者にお会いしたとはいえ――思うように調べえなかった点が挙げられる。またもう一点として、沖縄-ハワイ関係以外にも、沖縄の将来を見据えようとする人びとが複数おり、その方々の考え方も射程に入れる必要があるに気づかされた点である。それゆえパラオ調査を実施したが、さらなる検討が必要だと思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
そこで今後の研究の推進方針に関しては、若干の微修正が必要となる。科研費申請当初の計画は予定通り遂行する所存であるが、一部で時間の変更と計画のさらなる具体化が進められる必要がある。 まず、第1に、上述のように憲法案や独立論の論者たちは現在、東アジア共同体論に大きな関心を寄せている。それゆえ、この議論に関する動き、つまり会合、シンポジウムなどを含めた諸活動に注視する必要がある。なお、「東アジア共同体・沖縄(琉球)研究会」は、全国各地で活発にシンポジウム等を開催しているので、東京や沖縄以外の場所での参与観察等も求められるであろう。 つぎに、第2に、ハワイの比嘉静観のコスモポリタニズムに関しては、ハワイ大学ハミルトン図書館に資料等があるので、2年目の今年はまずその資料の収集から本格化したい。そのために、ハワイ大学沖縄研究センターの所長やポスドクの研究員(両者ともにすでにコンタクトがある)の助力を得て、進めていきたい。 最後に、第3に、当初の計画通り、2年目はペルー調査を行ない、すでに1年目に行なったパラオ調査を含めて、ハワイの沖縄系住民との比較検討を推し進める土台を構築したいと考えている。なお、ペルー調査に関しては、すでにハワイにてインタビュー調査したペルーからの移動者、および教え子でもあるペルー日系移民研究で学位をえたロサンゼルスの若手研究者とも連絡を取って、この調査を実施したい。 以上の微調整を含めて研究を継続させ、1年目の末に刊行した『トランスナショナリズム論序説』の続巻に当たるトランスナショナリズム論の『本論』に当たる部分(の一部)を、カナダでのISA世界社会学会議などでの報告、さらに論文および著書のかたちで成果として公表したいと考えている。
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Research Products
(8 results)