2018 Fiscal Year Research-status Report
保育職におけるバーンアウトの影響要因についての探索研究
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17K04106
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Research Institution | Kobe Women's Junior College |
Principal Investigator |
永井 久美子 神戸女子短期大学, その他部局等, 准教授(移行) (20615108)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
川村 高弘 神戸女子短期大学, その他部局等, 教授(移行) (20442395)
竹田 明弘 和歌山大学, 観光学部, 准教授 (90330505)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | バーンアウト / 保育職 / 影響要因 / ストレス / 離職 / 職務満足 |
Outline of Annual Research Achievements |
2018年度は、過去15年間の保育職をとりあげたストレス/バーンアウトに関する国内実証研究を文献調査した。久保・田尾(1994)は、「そもそもバーンアウトとは過度で持続的なストレスに対処できずに,張りつめていた緊張が緩み,意欲や野心が急速に衰えたり,乏しくなったときに表出される心身の症状のことである。(中略) 今まで元気に働いていた人が,突然,燃え尽きたように働かなくなる,あるいは,急にやめてしまうことがある。これがバーンアウトである。」としている。バーンアウトとは強度なストレスからくる諸症状、深刻なストレス反応と考えることができ、ストレスから発症する医学的所見としてうつがある。うつと、バーンアウトの間にも臨床診断レベルでは基本的に大きな差異がないと言われている(入江,2017)。ストレスから派生する症状(バーンアウト、うつ)を明確にすることなしに、バーンアウトの研究としての独立性、一連のストレス研究としての意義を主唱するには限界が発生することになる。 バーンアウトについてはほとんどの場合、Maslach and Jackson(1981)の尺度(MBI尺度)を利用していた。この諸症状を「情緒的消耗感」「脱人格化」「個人的達成の後退」の3つでとらえられている。井川(2018)の実証研究でも、情緒的消耗感と脱人格化という症状について、両者(バーンアウト、うつ)で類似の構造がみられた。ただし、国内実証研究では、ストレスから派生する症状(バーンアウト、うつ)の関連が明確に整理されないまま、既存の尺度を用いて行われた研究が多いことも明らかになった。この研究で重要となるのは、仕事に関する熱意があり、これまで仕事に打ち込んできた保育者が、ある種の原因を契機に急速に意欲を減退させることである。ここに着目した調査分析モデルを作成することが、この研究にとっても意義があるのではないかと考える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
竹田・永井・川村・中島(2018)では、勤務環境、保育技能に注目し、業務の曖昧性、業務の複雑性、労働量などがバーンアウトにつながる要因であることを指摘した。ただし、保育の既存研究は、必ずしもバーンアウトを発症した保育者の調査ではない。それゆえ、ストレス要因とバーンアウトの発症に関する因果関係については必ずしも明確ではなく、調査する意義がある。バーンアウトの影響要因を明らかにするためには、バーンアウトを引き起こした、もしくはバーンアウトに近い状態の従業員個人を対象とした調査が必要であり、その個人特性により着目する必要がある。 本研究では、個人―環境適合モデルのボトルネックは業務の適応にある。業務の適応が強く求められる時期は、就業初期である。それゆえ、香曽我部・永井・渡辺・川村・竹田(2019)では、過去にバーンアウトを発症した元保育者1名を対象とし、採用から離職までのプロセスを複線径路・等至性モデルを用いて分析を行った。その結果、新採1年目から立て続けに行事をこなしていく生活の中で、休みたくても休めない日々が続き、疲労を蓄積していったが、ともにクラスを担当する同僚保育者との関係性の良好さや家族のサポートに助けられてなんとか1年を過ごすことができた。しかし、2年目になると、同じクラスを担当する保育者の子どもに対する援助について疑問を抱くようになり、自らの保育実践とのギャップに悩みはじめる。次第に、その保育者との関係の在り方に悩むようになり、出勤することに不安感を強めるが、気軽には休めない職場とのギャップを埋めることができず、最終的には家族の勧めもあり、離職することを決断した。以上の結果から、バーンアウトの要因として、同僚保育者との関係性や家族のサポート、園長の保育への理解度など他者との関係性と休めない就労条件の悪さがあると示唆された。
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Strategy for Future Research Activity |
<2019年度> ①(5月)「日本カウンセリング学会 第52回大会」のポスター発表に向けて、研究討議のために議論を深める。②(6月)保育者へのバーンアウトの影響要因に関する質問紙調査の項目作成に取り組む。③(8月)「日本カウンセリング学会 第52回大会」にて、ポスター発表を行う。④「質問紙(本調査)」を開始(8月~9月)し、その分析を行う(10月)。この調査は全員関わり、議論を深める(11月~12月)。⑤2019年(12月~2月)には、下記の事項の整理を図り、「研究成果報告書」へとまとめていく作業(インタビュー・質問紙調査の結果と分析・文献調査の結果と分析・研究会、シンポジウムの報告、及びメーリングリストの運用報告・研究成果についての総括と提言)を行う。「研究報告書」の作成では、インタビュー・質問紙調査(本調査)を通して、離職とストレスをつなぐ影響要因を検討し、保育者の早期離職において、どのような側面が影響しているのかを踏まえて「研究報告書」を作成する。⑥「研究報告書」の作成〔全員〕(12月~2月)では、文献調査およびインタビュー・質問紙調査〔本調査〕等による知見を整理したものを冊子にまとめ、保育現場の参考資料として耐えうる研究報告書を作成する。〔研究報告書〕の頒布を行う。⑦冊子をインタビュー・質問紙調査〔本調査〕協力園に頒布を行う。(3月~4月) <2020年度> ①「日本保育学会 第73回大会」(5月)・「日本カウンセリング学会 第53回大会」(8月)において、研究成果の発表を行う。②「研究報告書」を用いた研修会の実施〔全員〕(9月~11月)では、インタビュー・質問紙調査協力園において、研修会をアクション・リサーチと位置づけて実施し、その結果をまとめる。③メーリングリスト、WEBサイトについては、研究討議のために議論を深める。
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Causes of Carryover |
今後は、インタビュー調査で得られた知見の一般性を確認するために、広くアンケート調査を行う予定である。その為の資料作成代・郵送代等に使用する計画である。
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