2017 Fiscal Year Research-status Report
現代農村における営農志向と生活史:農業近代化の経験と記憶の交差
Project/Area Number |
17K04111
|
Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
徳川 直人 東北大学, 情報科学研究科, 教授 (10227572)
|
Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
Keywords | 農業近代化 / 生活史 / 営農志向 / 代替的な営農志向 / 支配的表象 |
Outline of Annual Research Achievements |
今日の農村は異なる営農志向や生活志向が競合・葛藤する場となっている。本研究課題は、その中から、農業近代化の過程を経てきた酪農地帯を事例に、パイロットファームのような大規模化・装置化の道と、マイペースな適正規模による放牧の道とが、これまでにどのような生活史をたどってきたのかを記述し、そこに潜在する選択肢と交流可能性を明確化しようとするねらいを持っている。ことに、それを個々の農家の生活史および農民的アイデンティティとの関連において、記述することをねらいとしている。 本年度においては、主に次の三つをおこなった。 1)根釧パイロットファームの経験についてのインタビューをふまえた草稿(連載記事)を整頓して、一冊の合本版『語り聞く根釧パイロットファーム』にまとめた。文字のみで原稿用紙換算100枚になる。これは、現今、社会的・学術的に忘却の危機にある事象について記録にとどめようとする試みの一環である。今後、これを元に関係者の協力をさらに得ながらインタビューを進めるための重要な基礎となる。 2)今日の文化状況のうち、とくにロマンティックな牧場表象について、付加的な研究をおこなった。具体的に「牧場」および「牧場で飲む牛乳」に関するイメージ調査のデータ入力・解析を実施した。というのも、マイペース酪農のような代替的な農への試みが、しばしばロマンティックな食農表象と親和・共振してしまっていて、そこに当事者農家における特有の語りづらさや社会的反作用が発生していることが判明したからである。これによって、食農間のディスコミュニケーションの様態、その観点からする農家のアイデンティティ分析などが可能になる。 3)マイペース酪農については関係者と通信連絡を続けており、資料も十数年分以上を収集することができた。上記2)を踏まえて草稿化に着手することができる状態になった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
勤務上の都合と相手先の都合とがうまく合わせられず、計画していたフィールドワーク、とくに追加的なインタビュー、質問紙、参与観察などを実行することが難しかった。 その分、データ整理・入力と解析、草稿化に力を注いだので、遅れを若干にとどめることができた。
|
Strategy for Future Research Activity |
1)対象としている根釧パイロットファームについては先述の冊子『語り聞く根釧パイロットファーム』を関係者に送り、これをいわば呼び水として、更なる記憶や述懐を引き出すという方法に着手する予定である。具体的に、31年度内をめどに、①対象者を網羅する質問紙法、②重要な事例をしぼりこんだインタビューをおこなう。なおこれは区域内の半分(「豊原」地区分であって「美原」地区分は途上)なので、同様の作業をおこなう。単なる技術史・農業史・経営史ではなく、生活史・経験史であることを重視する。 2)追加的に課題とした支配的な食農表象の分析については、独立した草稿としてまとめることができる見込みがたった。31年度中に書物として整頓する予定である。これが3)の準備作業をも兼ねている。 3)対象としているマイペース酪農については関係者との通信連絡、資料収集を積み重ねている途上であるので、これを継続する。上記2)をふまえてその内的葛藤の過程にいっそうたちいった生活史・経験史であることを目指す。
|
Causes of Carryover |
計画していたフィールドワークが、業務の都合と向こう先の都合とがうまく合わせられずに遅延したことによるものである。その分、準備的・追加的なデスクワークをおこない、より深い聞き取りや分析を準備したので、それを実行する計画である。 具体的に、「根釧パイロットファーム」については、1)これまでに作成した作品の当事者への送付、2)質問紙の準備、3)質問紙の送付と返送、4)事例をしぼりこんだインタビューを実施する。 「マイペース酪農」については、これまでに得られた文書資料・歴史的資料のデータ化、その入力と分析をおこないつつ、参与観察とインタビューを準備する。 このため、大学院クラスのトレーニングを受けた作業員による資料整理・データ入力作業(年間を通して)、および、補助者を随行した現地調査(年間に3~4回)を見込んでいる。
|
Research Products
(1 results)