2019 Fiscal Year Annual Research Report
Farmers orientation and life history: The experience and memory of modernization of agriculture
Project/Area Number |
17K04111
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
徳川 直人 東北大学, 情報科学研究科, 教授 (10227572)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 農業近代化 / 生きられた経験 / 集合的記憶 / 伝承 |
Outline of Annual Research Achievements |
農業近代化の経験と記憶を発掘し、今日の営農志向の歴史的位相とともにオルタナティブな展開可能性を探るのが研究目的であった。これについて、近代化の典型たる大型酪農地帯である北海道別海町においてパイロットファームから新酪農村に至る近代酪農の展開を経験した豊原地区と、これと連動・対峙する動きとして同町内および周辺にひろがるマイペース酪農の運動とをとりあげ、資料収集とインタビューを進めることができた。 結果の一端を、2019年度日本社会学会大会にて「農業近代化の経験と語り:根釧パイロットファームの事例」として報告することができた。 同一事象の中にあった人々の間でも、その経験と語りは多様である。 最初に語られがちなモデルストーリーは、華々しい事業の裏で入植者が嘗めなければならなかった辛酸の語り、またはそれと逆に、困苦にめげずに事業を成し遂げ一大酪農郷を建設した自負と誇りの語りであった。なかでも、機械開墾の壮挙、初期のブルセラ病、負債整理のため経営不振者を自ら切り捨てざるをえなかった農協総会、規模拡大と農地の分散、それを処理した交換分合は、何度も反復して語られる「エピファニー」の経験であると同時に、今なお傷や葛藤を呼び起こす「語りづらさ」を有している。 しかし、これらの記憶が、今日の農業情勢との対比によって「教訓」としての意味を付与されてゆく場合がある。過剰投資の経験をふまえた風土論や適正規模の酪農論、生産一辺倒に対する生活の観点からの批判に導かれた生活文化論、森林や川の記憶に媒介されたエコロジカルな観点からの文明批評のように、ありえたかもしれないオルタナティブについての語りが見られた。 艱難辛苦の経験は概して語りづらさを抱えているが、その経験の語りは単に記憶の想起・咀嚼であるばかりではなく、今日の社会状況との対峙関係によって意味づけられていることが明らかになった。そこに伝承の可能性があろう。
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