2018 Fiscal Year Research-status Report
〈福祉国家-福祉社会〉体制の社会史－民衆の生存戦略と福祉秩序をめぐって－
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17K04112
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| Research Institution | Ibaraki University |
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Principal Investigator |
冨江 直子 茨城大学, 人文社会科学部, 准教授 (20451784)
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| Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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| Keywords | 生存権 / 歴史社会学 / 社会史 |
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| Outline of Annual Research Achievements |
明治から敗戦直後の日本における「生存権」に関連する3つのテーマについて研究を進めた。
①敗戦直後の焼け跡に闇市が発生し、やがて公権力によって排除されていく過程のなかで、「生存権」の理念と実践がどのように変容していったのかを考察した。国家による生活保障が破綻した状況において国家からの自由としてのみ「生存権」が存立したのが闇市の時代であった。やがて、社会運動と公権力によって闇市の排除が進められていくなかで、「生存権」は国家の秩序のなかへ包摂されていった。
②1910～20年代の中流階級の生活難をめぐる議論のなかから、国家による生活保障を正当な権利として要求する議論が生成してくることについて考察した。米騒動前後の生活難をめぐる議論は、とくに新中間層の苦境を中心に論じられた。新中間層は、俸給生活者であるために生活基盤が脆弱であると同時に、知識と矜持を持つゆえに国家・社会の中核たるべき人びととして価値づけられた。こうした新中間層に対する社会的評価や新中間層の自意識を根拠として、中流階級の生活保障が、国家・社会の秩序や発展のために肝要であることが主張された。
③明治憲法における「権利」の解釈および「生存権」について対照的な論を展開した法学者として、穂積八束と岡村司を取り上げた。穂積の論が、資本主義社会における弱者の「権利」を保護するために、あらゆる社会的権力を排斥しうる超越的な国家権力を呼び出すという国家全能主義であったのに対して、岡村の論は、社会連帯によって「権利」の濫用を制限し、資本主義の弊害を解決していこうというものであった。「権利」を保障するための国家権力を論じた穂積の論と、社会連帯のために「権利」を相対化した岡村の論は、国家論や権利論として対照的であるが、ともに「生存」の問題を論じ、「生存」のために個人の自由を否定したことにおいては共通していた。
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| Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成30年度に行う計画であった大正の米騒動前後および敗戦直後の「生存権」論の検討を進めるとともに、時代を明治期にさかのぼり、法学者穂積八束と岡村司による「生存権」論の分析を行った。敗戦直後の「生存権」論についてはひとまずの研究成果を論文にまとめた。大正の米騒動前後の時期については、生活保障の権利に関する当時の議論を分析し、今後論文にまとめていくための準備を行った。明治の法学者による「生存権」論については、ひとまずの研究成果を論文にまとめた。
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| Strategy for Future Research Activity |
令和元年度は、「明治」期、「大正」期の「生存権」論の分析を深めつつ、関東大震災後の「生存権」をめぐる議論を検討する。「明治」から「大正」の時代における「生存権」論の変化を明確にしながら、関東大震災の後の「昭和」の時代における変化を跡づける。昨年度から引き続きの課題である大正の米騒動前後の議論について論文としてまとめること、穂積八束・岡村司に続く世代の法学者による「権利」や「生存権」の議論の分析を進めること、関東大震災後のセツルメントを中心にとりあげて「権利」論や「生存権」論の有り様を明らかにすることを、目標とする。
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| Causes of Carryover |
平成30年度は資料収集と論文執筆に重点を置きつつ、学会や研究会にも積極的に参加したが、とくに執筆作業に多くの時間を割いたため、新しく書籍などの物品を購入しての作業が必ずしも多くは進められなかったことから、次年度使用が生じた。次年度は、これまでの作業を整理し、他の研究者の批判をいただきながらまとめていくために、書籍や資料の購入費、研究会参加のための旅費などとして使用していく計画である。
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Research Products
(2 results)
