2019 Fiscal Year Research-status Report
戦後日本の夜間中学とその生徒の史的変遷:ポスト・コロニアリズムの視座から
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17K04127
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
浅野 慎一 神戸大学, 人間発達環境学研究科, 教授 (40202593)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 夜間中学校 / ポスト・コロニアリズム / 中国残留日本人 / ディアスポラ / 義務教育 |
Outline of Annual Research Achievements |
当初計画通り、6つの研究を実施した。 第1に、6期の時期区分の中で、昨年度、特に多くの新史料を確保・収集し得た「第2期 高度経済成長期(1956~68年)」、「第3期 ポスト・コロニアル移行期(1969~79年)」、及び、「第4期 『国際化』期(1980~89年)」の諸史料について改めて第一次的分析を追加的に実施した。また全国夜間中学校研究会大会(第1回・1954年~第65回・2019年)に関する史料に限定した形ではあるが、「第1期 戦後混乱期」、及び、「第6期 日本衰退・東京一極集中期」も含め、全体を通史的に総括し、一定の研究成果として公表した。またそれらの作業を通して、より妥当な新たな時期区分の知見に到達し、これを発表した。第2に、「第5期 脱国家・グローバル期(1999~2009年)」以降の夜間中学の考察に不可欠な新渡日の外国人、中国帰国者(とりわけ二世・三世)に関する分析・認識を深化させた。特に中国帰国者二世の生活・学習に関する実証分析、及び、ポスト・コロニアルの東アジアにおけるディアスポラに関する理論的考察を前進させ、これらに関する研究成果を発表した。第3に、日本で最も多くの夜間中学が集中する大阪府の歴史と現状について、大阪の地域社会構造変動と結び付けて分析し、書籍の分担執筆として発表した。第4に、夜間中学をめぐる「人権侵害申し立て運動」関連諸史料、及び、水戸信一氏・河田馨氏・見城慶和氏・草京子氏等、夜間中学の歴史に大きな貢献を刻んだ人々の所蔵史料の整理・分析を進めた。第5に、全国夜間中学校研究会をはじめ、各地の夜間中学校関係者・当事者と連携・協働を深め、今後の『夜間中学校関係史料集成』、及び、通史的書籍の刊行について具体的な計画を立案した。第6に、諸学会、学術雑誌での発表以外に、関連情報をHP・マスメディア等を通しても公表・発信した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初計画以上に進展した点は、①6期の時期区分の中で、当初計画の第2期~第4期だけでなく、全国夜間中学校研究会大会(第1回・1954年~第65回・2019年)に関する史料に限定した形ではあるが、全ての時期を総括する形で夜間中学とその生徒の変遷を把握し、その前半部分について研究成果として発表し得たこと(後半についても既に入稿済み)、②またその作業を通して、当初計画時より妥当な時期区分の認識に到達し、これを発表し得たこと、③中国帰国者(とりわけ二世)について当初計画以上の論稿・口頭報告ができたこと、④大阪府における夜間中学とその生徒の歴史と実態に関する書籍(分担執筆)を刊行したこと、⑤今後の『夜間中学校関係史料集成』等の刊行について関係者と明確な方針を確認し得たこと等があげられる。 一方、当初計画よりやや遅れた点は、第6期における教育機会確保法(「義務教育の段階における普通教育に相当する教育の機会の確保等に関する法律」)の成立過程に関する諸史料の収集の時期が若干遅延し、またそれらの重複確認・手書きの書き込みの判読に時間を要したため、この過程に関する完全な第一次分析が完了しなかったことである。 それ以外は概ね当初計画を上回る進捗を確保し得たため、総括的にいえば概ね順調に進展している、または部分的には当初計画以上に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は最終年度であるため、研究全体を総括する。 第1に、第1期から第6期の全体にわたる夜間中学とその生徒の変遷過程に関する総括的論稿の後半部分を発表し、通史的把握を完成させる。また既に収集済みの全国夜間中学校研究会大会関係以外の個別の地域・学校の史料も可能な限り検討・読解し、通史的把握を一層緻密かつ豊富なものとする。第2に、引き続き補足的な史料収集・保存作業を推進し、さらに充実した電子史料保存システムを構築する。特に教育機会確保法の成立過程に関するアクチュアルな諸史料の収集・保存作業を推進する。またこれまで収集・保存してきた諸史料を、個人情報の保護を重視しつつ、次世代に継承・公開するための具体的な方法を関係者と慎重な審議を重ねた上で決定する。第3に、特に中国引揚者・帰国者の帰国後の生活において夜間中学が果たして来た役割に焦点を当て、総括的な論稿を発表する。また在日コリアン・インドシナ難民・新渡日外国人の生徒との比較研究も行い、これらによって日本の夜間中学が東アジアの越境的社会圏に果たしてきた役割を多角的視点から解明する。第4に、全国夜間中学校研究会をはじめ、各地の夜間中学校関係者・当事者と引き続き連携・協働を深め、『夜間中学校関係史料集成』、及び、通史的書籍の刊行を具体化する。第5に、研究成果がまとまり次第、口頭発表・学術論文として発表するとともに、関連情報をHP・マスメディア等を通して公表・発信することは、前年度と同じである。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が30,721円あるが、主要には新型コロナ・パンデミックのため、予定していた必要なパソコン関係消耗品(中国製)の入荷が遅延したためである。2020年4月以後、入荷が可能となった時点で購入する予定である。
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