2018 Fiscal Year Research-status Report
「美的労働」を通じた従業員の外見の選別と管理に関する研究
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17K04130
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Research Institution | Wakayama University |
Principal Investigator |
西倉 実季 和歌山大学, 教育学部, 准教授 (20573611)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
星加 良司 東京大学, 大学院教育学研究科(教育学部), 准教授 (40418645)
飯野 由里子 東京大学, 大学院教育学研究科(教育学部), 特任助教 (10466865)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 美的労働 / 対人サービス / 美の政治 / 身体の統制・管理 / ジェンダー不平等 / 新自由主義的主体 |
Outline of Annual Research Achievements |
美的労働(aesthetic labour)についてジェンダーおよび女性労働の視点から検討した。まず、美的労働と従来よりとりわけ女性に要請されてきた身体の提示を伴う労働(display work)との差異を精査した。美的労働は、労働者の身体が組織的な統制・管理の対象となる点で、産業構造の変化に付随する「新しい形態の労働」として把握しうることを確認した。また、美的労働を「女性が有利に利用できる美や性的魅力などの資本を活かせる労働」として評価する議論(C. ハキムの「エロティック・キャピタル」論など)を批判的に検討した。美的労働は、男性=精神/女性=身体という二元論を強化し、女性の活動領域や役割を固定化するという点で、むしろジェンダー不平等を帰結することを確認した。さらに、女性労働研究にとって美的労働が持ちうる意義を検討した。従来の女性労働研究は、市場外で女性によって担われる不払いの諸活動や今日では「ケア」と呼ばれる情緒的・関係的貢献を「労働」として定義する視点を提示し、経済的・社会的な承認・評価の必要性を主張してきた。これに対して美的労働概念は、企業イメージやブランドの個性を身体を通じて表現することが労働として定義され、組織にとって価値を生むものとして承認・評価されていくがゆえの問題を把握しようとする視点であり、女性労働研究にとって有用であることを確認した。 以上の成果は研究ノートとしてまとめ、『女性学』(日本女性学会学会誌)に投稿し、掲載された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本来は調査に着手する予定であったが、概念の精査および調査で検討するべき課題の洗い出しに重点を置き、調査の実施を次年度に延期したため。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの文献研究の成果をふまえ、企業が従業員に要請する「能力」とそこで外見が占める重要度、および企業による従業員の外見管理の実態を明らかにするための事例調査を企画し、準備を進める。具体的には、サービス業に従事する企業に調査依頼をし、雇用者(管理者)および従業員へのインタビュー調査を実施したいと考えている。調査項目としては、提示したい企業イメージ、外見に関する服務規程や研修の有無と内容、従業員自身による外見管理の実態、美的労働による心身への影響などが挙げられる。
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Causes of Carryover |
インタビュー調査を次年度に延期したため、調査の実施にあたって計上していた国内旅費、調査協力者への謝金、データ整理のための人件費について次年度使用が生じた。インタビュー調査の企画・立案をおこなうため、調査対象に設定した業界の研究に必要な文献購入費、調査のための国内旅費および謝金として使用する予定である。
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