2020 Fiscal Year Research-status Report
「美的労働」を通じた従業員の外見の選別と管理に関する研究
Project/Area Number |
17K04130
|
Research Institution | Wakayama University |
Principal Investigator |
西倉 実季 和歌山大学, 教育学部, 准教授 (20573611)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
星加 良司 東京大学, 大学院教育学研究科(教育学部), 准教授 (40418645)
飯野 由里子 東京大学, 大学院教育学研究科(教育学部), 特任助教 (10466865)
|
Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | 美的労働 / ルッキズム / 外見に基づく差別 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、現代日本社会のサービス産業をフィールドに、美的労働を通じて企業が従業員に求める外見の具体的様相とそこに潜む排除の問題を明らかにしたうえで、美的労働への従事が従業員の心身に与える影響を検討することである。 当該年度は、職場における女性の経験に関する実証研究を精査し、美的労働がその従事者にもたらす種々のコストについて検討した。まず、従業員が組織の要請する外見を実現するには多大な金銭的・時間的コストを要する。従業員は、組織が求める「魅力的な外見」であることで職場において優遇され、反対にそうではないことで不利益を被ることを認識しており、そうした不利益を回避するべく自身の外見を変えるために金銭的・時間的コストを負担している。また、組織の要請する外見を実現するためのダイエットや美容整形などにより、健康面でのリスクにさらされているほか、外見にまつわる不安から摂食障害やうつなどの心理的問題を抱える場合もある。加えて、「魅力的な外見でなければならない」という圧力は男性よりも女性に対して強く作用し、かつ社会的に価値づけられている外見の美しさは社会的カテゴリーによって不均衡に配分されているため、支払うコストは男性よりも女性において、女性内部でも社会的マイノリティにおいてより大きいと言える。 外見が労働市場での結果に与える影響に関する近年の研究では、外見の美しさは労働市場においてより良い見返りを得るための個人的な資本と捉えられている。これに対して本研究では、社会的カテゴリーによって人々の間にはそもそも初期資本に違いがあり、「投資」をしてリターンを得るためのコストも異なることを指摘した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
学部棟改修にともなう研究室の度重なる引っ越しのため、文献資料等を保管庫に保管する必要が生じ、スムーズな文献調査を実施することに困難があった。また、新型コロナウイルス感染拡大への対策のため、予定していたインタビュー調査を延期せざるを得なかった。
|
Strategy for Future Research Activity |
美的労働の従事者が自身の外見を変えるモチベーションは、組織のフォーマルな管理(組織の意向に沿わなければ採用されない/賃金が上がらない/組織や顧客からの評価が得られない)によるものに限定されず、むしろ自己の行為を反省的に吟味し、自らの裁量と判断で自身の身体をモニターし管理することに労働者自身が積極的に価値を見出すといったインフォーマルな動機づけが同時に存在すると考えられる。美的労働への従事が従業員の心身に与える影響については、労働時間外における自己の身体との関わり方についても視野に入れて検討を進める必要がある。
|
Causes of Carryover |
予定していたインタビュー調査が実施できなかったため、調査に関わる交通費と謝金を使用しなかった。次年度使用額については、改めて計画しているインタビュー調査のための交通費および謝金として使用する予定である。
|