2021 Fiscal Year Research-status Report
フィンランドの社会福祉・医療保健制度および地方制度改革に関する総合的な研究
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17K04138
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Research Institution | Tsuru University |
Principal Investigator |
田中 里美 都留文科大学, 教養学部, 教授 (00300129)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | フィンランド / 福祉国家 / 社会福祉・医療保健制度 / 地方自治制度 |
Outline of Annual Research Achievements |
現代の先進国では、社会福祉・医療保健サービスは、人びとの生活に欠かせないものとなっている。一方で、福祉国家は、その成立を支えた諸条件の変化に直面している。サービスを維持するため、制度の持続可能性を保持しながら、現代の諸条件に適合的なものに改変していくことは、先進各国共通の課題である。 本研究はこの関心から、フィンランドを事例に、社会福祉・医療保健サービスにかかる資金調達および組織化の責務を、従来の基礎自治体から、新設の広域自治体に移管する制度改革に注目し、新制度への移行日(2019年1月1日)までの準備、そして施行後の状況を、現地の関係機関での聞き取り調査を踏まえて検証することを目的としていた。 しかし、改革そのものの進捗の遅れ、政権交代(2019年4月の総選挙で中央党を中心とする中道右派連立政権から、社会民主党を中心とする中道左派連立政権へ)、また研究者側の問題(コロナ禍により現地調査不能)等、研究実施計画は大幅に変更を余儀なくされた。 政権をまたいで引き継がれた改革は、2021年度に大きく進捗した。6月に関連法が成立し、21の福祉圏(広域自治体)は7月1日にスタートした。2022年1月の福祉圏議員選挙を経て、議会は3月1日から運営を始めた。2023年1月1日に新制度への移行が予定されている。 現政権下での改革の変更点は、ヘルシンキを改革の対象から除外したことである。 (1)グローバル化により都市間競争がし烈化する中、ヘルシンキをフィンランドの成長の要、特別な存在とする見方が広く浸透していたことが窺える。(2)全国同一の制度の施行よりも、住む場所にかかわらないサービスへの権利の保障という「実」が取られた改革であったと言える。(3)福祉国家を支えてきた条件の変化、制度そのものの形式の変化が指摘できる。普遍主義的原則を掲げた北欧型の福祉国家での制度改変の様態は、事例として興味深い。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2021年は、研究対象である改革自体には大きな進捗が見られたものの、研究者側の事情により、研究手法が制限された(コロナウィルスの感染拡大により、現地調査が実施できていない)ため。
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Strategy for Future Research Activity |
2017年度から開始した本研究の当初の計画では、2019年1月1日の新制度発足に向けた準備、および施行後の状況を2020年度までで等分に検証する予定であったが、改革自体の遅れ、政権交代による改革スケジュールの変更により、これが果たせなかった。 改革完了が2023年1月1日とされたことで、2023年3月までの本研究の研究期間では、新制度施行後の問題点についての検討は十分に行うことは出来なくなった。 しかし、新型コロナウィルス感染拡大により研究期間を2年延長したことで、政権交代を挟んで丸4年の遅延となった(2つの政権にまたがって、8年で完遂されることになった)社会福祉・医療保健および救急制度改革の完了までの期間をちょうとカバーできることになった。 新型コロナウィルスによる渡航制限の状況を見て、フィンランド北部ラップランド地方の中心都市ロヴァニエミ、南部の都市トゥルク市での現地査の実施を判断する。 一方で、改革をめぐる現地の新聞の分析、およびインターネットでアクセス可能な論文、書籍、データによる検討を従来通り進める。 2023年1月1日の新制度の移行までを総括した論文を作成するとともに、学会発表(2023年度の学会を予定)を行う。
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Causes of Carryover |
新型コロナウィルス関連の渡航制限により現地調査が実施できず、また、情報収集のために参加予定だった国内の学会もオンライン開催となり、このために計上していた旅費を使わなかったため。またこれとからんで、調査にかかる人件費、謝金も使用しなかったため。 状況を見て、現地調査の実施を判断し、旅費、人件費、謝金を利用する。 現地での改革の進捗状況、指摘される問題点について状況を把握するため、現地新聞のオンライン版の購読を行う。改革そのものおよび、これを見るための視点を構成するため、書籍の購入も並行して進める。
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