2018 Fiscal Year Research-status Report
日本の出産文化の歴史社会学的研究―リプロダクティブヘルスと助産所の機能を中心に
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17K04151
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Research Institution | Otsuma Women's University |
Principal Investigator |
大出 春江 大妻女子大学, 人間関係学部, 教授 (50194220)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
松岡 悦子 奈良女子大学, 生活環境科学系, 教授 (10183948)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 産婆 / 助産婦 / 産院 / 助産所 / リプロダクティブ・ヘルス / 出産 / 医療化 / 産師法 |
Outline of Annual Research Achievements |
2018年度は研究代表者、研究分担者、研究協力者間の研究交流を深めるとともに、それぞれの研究を深めた。京都府助産師会と大阪府助産師会には資料の電子化とリスト修正作業終了後に、返却をおこなった。特に京都府資料は、図書・雑誌類は少なく、その多くが産婆会時代の事務にかかわる様々なタイプの資料だったことから、資料リストを修正する必要が増えた。このため、資料返送の際に研究代表者大出と研究協力者の岡本が京都府助産師会館にて立ち会い、修正リストと資料との照合作業をおこなった。 当初の予定された電子化作業とは別に、大阪府助産師会で保管されていた戦前期の助産カルテについて(2017年度段階では電子化の対象外としていた)、劣化が著しいことから、資料の電子化の依頼があり、郵送にてこれを受け取った。また京都府助産師会からは1936年に実施された大日本産婆会(京都大会)にかかわる資料が会館内で保管されているとのことで、すでに電子化済みの資料に加えて、これらの資料の電子化の依頼を受け、作業を継続している。 大阪府助産師会が保管していた「堺市赤ちゃん審査会写真帖(帳)」資料をもとに日本社会学会にて学会発表(ポスター)を行った。また戦前期の産院について19世紀末期からおよそ半世紀にわたる法律の変遷を整理し制度的に跡づけ、これを日本助産学会学術集会にて学会発表(ポスター)を行った。 2018年度は研究代表者が戦前期の産婆会の全国組織化にかかわる産師法制定運動についてまとめた論文を中心に『産婆と産院の日本近代』という単著を出版した。著書がきっかけになり日本助産師会出版から2019年2月号の依頼原稿と出産ケア政策会議主催のシンポジウムにおける基調講演の依頼を受け実施した。 戦前期産婆会関連資料リストの修正、電子化資料の確認作業(ページの漏れ、ページレイアウトの統一など)を進めた。この作業は今年度も継続中である
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究計画は①出産の医療化論、リプロダクティブ・ライツ/ヘルス、ケアの倫理にかかわる理論的整理、②大阪府助産師会館の所蔵資料の確認とデジタル化、③九州3県の助産師会館への訪問と所蔵資料の確認、④東京、大阪を中心とした地域の開業助産師(産婆)に関する情報収集とインタビュー調査を当初の予定としていた。しかし、収集した資料の確認とデジタル化に時間を必要とすることがわかり③,④への着手をせず、①、②を中心に実施することにした。 研究組織を構成するメンバ-全員が集まった研究会は東京の日本助産師会館会議室にて1回実施した。研究代表者が個別に会って打ち合わせる形で数回おこなった。具体的には、研究代表者と研究分担者松岡との間で奈良で打ち合わせた(1回)。また、研究代表者と研究協力者岡本との間で東京で打ち合わせ(2回)、また京都助産師会館への往復車中で資料収集および研究に関する打ち合わせを実施した。直接、一同に会する研究会の開催の代わりにメールによる連絡・打ち合わせを行った。 研究組織構成員全体での打ち合わせはさらに2回程度、実施予定でいたが、研究代表者の学内の業務と単著のまとめ等の作業に時間を割く必要があったために、前述のような形で実施した。 当初の予定とは異なるが、2018年度は大阪府助産師会保管資料のうち「堺市赤ちゃん審査会写真帖(帳)」は復刻版の図書として出版の見通しを得ることができた。このための解説は執筆済みである。また電子化した資料を大学間のネットワークをつくり戦前期産婆会関連資料としての閲覧を可能にする見通しを得たことはもっとも重要な2018年度の大きな成果である。これを2019年度に実施するために、リプロダクティブ・ヘルスと家族社会学を専門とする田間泰子氏に研究分担者として参加して頂き、最終年度に向けた体制が整ったといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
2019年度は、この3年間に電子化した資料をもとに、研究組織の構成メンバーによる研究成果を2020年2月29日に大妻女子大学(千代田校)で発表する予定である。この発表はシンポジウム開催ポスターとして作成し、内外に広報し、80~100名規模での開催を考えている。シンポジウムの成果と電子化した資料リストを冊子としてまとめることと、これを大学図書館および各都道府県の助産師会と関心の高い研究者に配布することを予定している。 電子化した資料(pdfファイル)の確認作業は現在継続中であるが、宮城県、千葉県、長野県、大阪府、京都府、鳥取県、島根県、愛媛県の保管資料の電子化資料をどのように、またどこまで公開が可能かを研究組織構成メンバーで確認し、また助産師会の承諾を得た後にDVDを作成する。DVD作成により資料閲覧が簡便になるので、これを大学間のネットワークをつくり「戦前期産婆会関連資料」(仮称DVD)としての閲覧を可能にすることをめざす。 「戦前期産婆会関連資料」(仮称DVD)には住所、氏名の記載が多く、電子データの安易なコピー等に対し、慎重な制限を設ける必要があるため、館内閲覧限定・電子データの複製厳禁といった対策を設けることを考えている。 2019年10月は京都府にて「近畿地区助産師研修会」が開催される予定であり、今回の資料閲覧と電子化作業がきっかけとなり京都府助産師会を通じて招待講演をおこなうことになった。助産職の歴史とアイデンティティおよび日本における出産のあり方を考える上で意義ある講演にすることをめざし、これを2020年2月開催のシンポジウムの内容深化につなげていく予定である。
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Causes of Carryover |
2018年度は研究組織構成メンバー全体による研究会の開催が予定より2回少なかった。研究代表者は研究分担者や研究協力者と個別に打ち合わせ、全体間はメールで連絡をとるように努めた。これが次年度使用額が生じた大きな理由である。 2019年度は1)電子化された資料を分析対象とする作業と2)資料を収録したDVDの作成(仮称「戦前期産婆会関連資料」)3)館内で当該DVD資料閲覧を可能にする大学ネットワークの構築をめざす。限定的な形ではあるが、この「戦前期産婆会関連資料」という情報インフラ整備により、産婆・助産婦・助産師の社会史へのアクセスを東京と関西を中心に行う予定である。1)~3)を行うと共に、その成果を2020年2月29日に研究代表者が所属する大妻女子大学で実施するシンポジウムで公開する予定であり、昨年度の未使用額はこれらに使用する予定である。
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Research Products
(18 results)