2018 Fiscal Year Research-status Report
Comparative Sociological Study of Cancer Tobyo-ki:Interaction between Individuals and Society in Narratives of Illness
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17K04160
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| Research Institution | Japan Women's University |
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Principal Investigator |
門林 道子 日本女子大学, 人間社会学部, 研究員 (70424299)
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2017-04-01 – 2020-03-31
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| Keywords | 闘病l記 / がん / 比較社会学 / ナラティヴ / 闘病 / 変遷 / 要因 / 相互作用 |
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| Outline of Annual Research Achievements |
2011年学位論文をまとめた著書出版時において私は今後の課題として２つを挙げたが、１つは「書く」ことでのケア臨床応用であり、もう１つは闘病記の比較社会学的研究であった。前者はすでに科研採択（25510015，2013-2016）されたうえで、検証に取組み、成果報告を終えている。次に採択された後者の研究では、まず、国内で2006年以降に出版された患者本人によって書かれたがん闘病記100冊を調査対象とし、既に私がマスター・ナラティヴを提示してきた1960年代から2005年までの闘病記との比較により、書き手と書き手が置かれた社会的状況の経時的変化を捉え語りの内容と変遷要因を追究することで、闘病記をめぐる個人と社会の相互作用を明らかにすることを目指した。闘病記とは病いの物語であり、個人的、独自な経験と社会や文化のなかに埋め込まれた要因とが織りあわされて構成される物語である。現在、２人に１人が罹患し、慢性病の様相が強くなった時代のがん闘病記の内容は、むしろ再発がん、多重がんとどう向き合うかが問われるような時代になっている。自らの死が予見可能なだけに、事態をできるだけ正確に捉えて主体的能動的に向き合おうとするものが増えている。その要因を考察し日本緩和医療学会やカナダで開催された第19回ISA(国際社会学会議)において発表した。さらに第24回日本看護診断学会学術大会において「つなぐ・つなげる闘病記-患者が主体的に生きるためのケア」と題し、がん闘病記の過去・現在・未来を招待講演（市民公開講座）で話す機会を得た。
過去の自身の研究で、「『闘病』記」の「闘病」は、1920年代に登場した社会的造語であると考えられたが、現在の「闘病記」に「闘病」意識の多様化がみられることから、「闘病記」はどのような変化をとげるのか。闘病記の現在・過去・未来に着目し、「『闘病』記」という概念の検討も現在行っている。
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| Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初の計画では質的記述的方法によりがん闘病記100冊の文献調査を行い、経時的変化を捉えた後で、書かれた記述と著者の語りを重ね合わせ考察するために、特に乳がん闘病記についてのインタビュー調査も考えていたが、まだそこまでには至っていない。
乳がんは、部位別出版数においてもがん闘病記の最多を占め、「女性」性の問題、可視化の問題も伴うだけに、過去においても私が看護学分野で分担者となった課題も含め、多面的学際的に研究を積み重ねてきた。乳がんという病気の特性から完治とはならず、長期にわたって慢性の痛みをもっていることもひとつの大きな特徴であった。それゆえ、罹患から20年経っても闘病記を書く人が少なくはなく、その動機を「使命」ととらえている人も多く存在した。乳がんの闘病記が依然としてもっとも多いのか。乳がん以外の部位の闘病記の書き手にはこのような「使命」という意識は果たしてあるのだろうか。また膵臓がん（5年相対生存率7％）や肝臓がんなど難治がんとされる闘病記の出版数も増加していることから、それらの闘病記と乳がん、5年生存率が比較的長いとされる大腸がんなどとの比較も試みる。がんの部位、さらにはジェンダーや年齢、職業間で、語りの内容やがんと向き合う意識に違いはみられるのだろうか考察する予定である。
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| Strategy for Future Research Activity |
乳がん闘病記と他の部位のがん闘病記との比較検討のほか、現代日本で、病いを取り巻く大きな社会問題となっている「がんと就労」についてもどのような問題が発生しているのか闘病記の内容から検討する。1980年代に大腸がんに罹患、5年生存率20％から完治した闘病記（関原 2001）の著者は、2016年出版の復刻版で、職場に理解があり、罹患前と変わらぬ状況で銀行員としての仕事が続けられたことを「ありがたかった」として挙げている。また2016年秋に刊行された2冊の闘病記の著者である医師と記者も類似の状況にあり「感謝」を記している。しかしながら非正規雇用が高率を占める社会状況の中でがん罹患者の就労は一般的には厳しい状況にあるのではないか。文献から分析、検討する。
昨今の闘病記にはブログから書籍になったものが増加しているが、ソーシャルメディアの時代の闘病記の変容についても出版形態の型を類型化するなどで考察、検討する。
これまでの社会学では病いを負った人々についての研究そのものがあまりされてこなかった。病気になって痛みや苦しみを負った人がその後どのように病いと向き合い、「生」を生きているのかを闘病記を通して明らかにし、そのような人の声を聴き、これまで見えにくかった部分を切り拓くというのはまさしく社会学がなすべき仕事としても重要であると考える。がん闘病記の現在・過去・未来、「闘病」の概念の再規定を企図するこれらの研究が、臨床分野への応用も含めて、社会学的方法論と実践のひとつの提示とすることができればと考える。
また、日本のがん闘病記の比較研究と合わせて、欧米（とくにイギリス・アメリカ）のがん体験記に関心をもち文献収集なども行ってきたが、次には日本のがん闘病記との比較文化・比較社会学研究に進展させていきたいとも考えている。
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| Causes of Carryover |
闘病記の購入について、海外での病気体験記購入等も行ったものの、国内においてはかなりの部分、オンラインで中古の闘病記を手に入れることができたため、著書購入について物品費コストをかなり抑えた結果になった。さらには、介護等個人的な事情もあって、ISAへの参加の後、2018年度後期は、予定したインタビュー等に着手できなかったほか、学会参加や発表、論文執筆などが進まず、人件費、謝金、その他で未使用金が発生した。
今年度は、論文執筆のための社会学系の専門書購入をはじめ、データ入力のためのアルバイト費用、学会参加費や旅費、ポスター作成費用、翻訳チェック費用、等への出費を考えている。予定が順調に進み、インタビューに至った折には、謝金としての支出も予定している。
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| Remarks |
2017年6月の1フリーアナウンサーの乳がん死後、彼女のブログの反響の大きさもあって、闘病記や闘病ブログを「書くことの意味」について、闘病記の研究者という立場で、複数の新聞社からの取材を受けた。2017年度（6月読売新聞・7月毎日新聞）、2018年度は6月27日朝日新聞（大阪本社版）に記事が掲載された。
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