2018 Fiscal Year Research-status Report
越境する沖縄のパイン産業の基礎的研究-台湾・ハワイとの結びつきを中心に
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17K04165
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Research Institution | Kanagawa University |
Principal Investigator |
八尾 祥平 神奈川大学, 経営学部, 講師 (90630731)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 華僑華人 / グローバルヒストリー / パイナップル / 製缶 / ハワイ / 台湾 / 沖縄 |
Outline of Annual Research Achievements |
昨年度に引き続き、ハワイ・台湾・沖縄で史資料収集および聞き取り調査を実施した。昨年度までで、ハワイから台湾を経由し、沖縄までパイン産業が伝播した歴史的経緯をおおまかに把握することはでき、今年度は、(Ⅰ)パイン栽培従事者による視点の史資料の収集と分析、さらに(Ⅱ)パイン産業と関わりの深い他の産業とのつながりについての史資料の収集と分析を行い、これまでの研究成果によってできた骨格を肉付けしていく作業ができた。 (Ⅰ)については、たとえば、戦前のハワイでパイン栽培に従事し、そこで身につけたノウハウを台湾で指導していた中心的人物の史料を発見し、さらにその遺族からも貴重な資料の提供を受けた。これらの史料では、当時のハワイにおけるパイン産業における日本人の位置づけを明確に示す重要な史料であるものの、ハワイにはなく、台湾にあったため、これまでハワイ研究者と台湾研究者からも見落とされていた。こうした地域と地域の間に埋もれた新資料によって、行政や企業による記録とは異なる民衆による生きられたパイン産業の歴史の一端を明らかにすることができた。 (Ⅱ)については、(1)パイン産業と他の農業との連関、(2)パイン産業と製缶業との結びつきについての知見を得ることができた。(1)については、ハワイ・台湾・沖縄ではパイン産業は砂糖産業と強く結びついており、とりわけ、ハワイのキビ生産者はパイン生産者へと流出し、戦前の砂糖産業における労働争議の経験が戦後のパイン産業における労働争議につながるという社会運動史上の発見があった。また、大英帝国圏のマレーシアなどではゴムの間作としてパインが栽培され、日米帝国とは異なる形態がみられた。(2)については、パイン缶の製造ノウハウはアメリカがモデルとなっており、製缶のグローバルな流通も重要な課題であることが明らかにできた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
ハワイ・台湾・沖縄での史資料調査・フィールド調査の結果、計画当初の予想を上回る発見ができた。計画当初の予想を上回る発見は以下の通り。 (1)パイン産業の国際移動における「人種」の問題:昨年度は、日系人・沖縄人・フィリピン人についての問題について様々な発見があったが、今年度はハワイやフィリピンではあらわれてこない、台湾人についての発見があった。ハワイやフィリピンには日系人や沖縄人がいたにも関わらず、台湾人はほぼみられない。こうした違いは、当時のアメリカ政府は、台湾人を日本帝国臣民であるにも関わらず、エスニシティとしては中国人と同等とみなし、排華法が適用され、入域できなかったことを示唆する史料を発見した。このことは、1930年代に台湾のパイン産業の経営統合により台湾でのパイン経営から離れざるを得なかった台湾人たちが沖縄へと流入したという出来事が単なる日本帝国圏内の移動ではなく、アメリカ帝国による「人種」政策が強い影響を及ぼしていたことを示し、これまでの一般的な理解を塗り替えることになる。また、既存の日系人研究や華僑華人研究ではこうした台湾人の境遇について見落とされてきた点であり、既存研究の水準を大きく刷新することにもつながる発見といえる。 (2)大英帝国圏のパイン産業との比較:本研究ではパイン産業を通じた日米帝国間関係を主な分析の対象として研究調査がすすめられてきた。調査を通じて、大英帝国圏でのパイン産業についての史資料にも目を通し、日米とは異なる、大英帝国圏でのパインの受容についての比較研究も必要であるとわかった。たとえば、先述したゴム農園とパイン栽培との関係は、日米帝国ではみられないものと考えられた。また、台湾ではパイナップルを日本統治時代に定められた和名・鳳梨が用いられる一方で、香港では波羅という名称が用いられるなど、同じ中国語圏でも旧宗主国の違いによって用語が異なっている。
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Strategy for Future Research Activity |
2019度は研究の最終年度として、これまでの研究の補足調査と研究結果のとりまとめを行う。 前者については、これまでの研究における分析結果のとりまとめをした上で新たに出た疑問点を解消するための史資料調査や聞き取り調査などを、ハワイ・台湾・沖縄などで実施する。また、可能であれば、ハワイ・沖縄のパイナップル産業の衰退とも大きく関わるフィリピンへのパイナップル産業の国際移転について、フィリピン側の史資料調査も実施したいと考えている。 後者については、これまでの研究成果の一部を論文としてまとめ、八尾祥平「パイン産業にみる旧日本帝国圏を越える移動―ハワイ・台湾・沖縄を中心に」植野弘子・上水流久彦編『帝国日本におけるモノの交錯』、八尾祥平「パイナップルの焼菓子からたどるアジア太平洋のなかの日本帝国」植野弘子・上水流久彦編『帝国日本における人の交錯』として2019年度に刊行される予定(現在、編集作業中)。これに加えて、本研究による最終的な研究成果を出版するため、現在、出版社と刊行についての話し合いを行っているところである。
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