2018 Fiscal Year Research-status Report
グローバル経済下の開発途上国農村の開発・発展と社会運動の役割
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17K04173
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
大倉 三和 立命館大学, 国際関係学部, 非常勤講師 (30425011)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 開発途上国社会運動 / 順応的ガバナンス / 水資源管理 / 開発援助 / 農村開発 / 在来知 / 南アジア / バングラデシュ |
Outline of Annual Research Achievements |
開発途上国の農村住民運動が、持続可能な社会発展に果たす役割と課題の解明を目指す本研究が2年目に計画していた作業は、1年目の課題整理にもとづく現地調査とその結果分析であったが、初年度の課題整理がずれ込んだことと、「現在までの進捗状況」に示す理由により、下記サブテーマごとの課題や視角を定め直し、論文作成開始に漸く漕ぎ着けるまでに留まった。 (1)社会変動と社会運動: 社会変動は少なくとも部分的には社会運動を不可欠のエージェントとし、制度形成の遅れた環境分野ではその可能性が高い。しかし先進国社会運動の成功裡の帰結を分析してきた資源動員論などの説明には、運動に焦点化しすぎた点で妥当性に疑念が生じている。近年は運動が対象とする政策領域に焦点が移り、多様な環境要因との関連で帰結を検討する研究が増えている。 (2)国際開発、制度変化と開発・発展: 一方で近年の国際開発では、順応的アプローチや社会的説明責任の追求を促し、地域の文脈内で制度改革を進めるなど、開発途上国社会の長期的・内発的な変動過程に理解と支援を向ける傾向が見られる。これに照らせば、途上国農村の住民運動を、資源利用を巡る日々の試行錯誤や交渉の集中的展開によって新たな制度形成を試みる過程と位置づけ、そこでの資源動員や学習過程の実態を明らかにする必要性は残っていると確認できる。 (3)順応的アプローチの拡がりと特性: 環境変化の不確実性に効果的に対処していく手法として、資源管理や組織経営などに導入され、近年は水資源管理や開発論でも推奨されるが、実践による学習と行動修正という日常の行為パターンや長期の組織管理サイクルを、予測・計画に基づく事業推進の短期過程に組み込むことには様々な抵抗や問題が伴うと考えられる。しかし先行研究はこうした問題への対策を殆ど示しておらず、そうした問題と必要な対策を具体的に明らかにすることが、現地調査の課題となる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
社会運動が開発途上国農村社会の持続可能な発展に果たす役割の解明という目的にむけては、研究内容にかかわる理由と研究以外の事由により、約1年の遅れを生じながらも、作業を以下のように進めている状況である。 まず研究内容に関する理由として、1年目の先行研究レビューにより、制度や政策の変化に果たす社会運動の役割を論じるうえで要求されるようになっている難しい課題につきあたり、当面の研究の視点や枠組みを再設定することとなった。近年ひろがる順応的アプローチとの関連で課題を限定できれば、運動と帰結を前面に扱うよりは有意義と考え、先行研究を検討したが、同アプローチの事例研究には、理論的に示されるほどの革新性や意義が読み取りにくく、研究の視点や住民運動との関連性を明確化できるまでに大いに手間取った。順応的アプローチが形成された背景や、開発論において重視されたことのある経験-学習プロセスに関する議論との関連をたどることで、ようやく年度末近くになって課題設定を落ち着けることができた。 研究内容以外の事由としては、主に、計画作成当初に期待できたエフォート率が、その後に担当することになった授業科目などとの関連で大きく低下したことが影響している。これまでの蓄積で運営できた科目の担当が減ったため、その分の埋め合わせには不可欠だったものの、数年来のブランクがあり、目下の研究と直接には関係しない科目を担当したことで、授業準備に年間を通してかなりの時間を費やすこととなった。アクティブラーニングなど、受講生の考える力を重視する形の授業や試験、成績評価を試みることで、その準備や評価に要する時間が増えたことも少なからずひびいている。家事と教育で切れ切れの時間であっても、研究にかかわる作業効率がこれ以上落ちないよう、工夫にいっそう努めたい。
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Strategy for Future Research Activity |
本来であれば最終年度にあたる本年の研究推進は、まずは上記のように設定しなおした枠組みのなかに、これまでの調査成果を位置づけ、現地に還元するに足りる論文にまとめることが課題であり、これを環境社会学会の学会誌に投稿するとともに、次の現地調査への準備を整える方向で急ぐ。それでも夏季休暇に現地調査の実施を間に合わせるのは現実的ではないため、春季休暇には必ず実施することとしたい。 現地調査では、見込みとして次の点を明らかにする。1)住民運動と政府との交渉のその後の展開過程で、実験的順応管理の推進に反対する層との対立がどう解決されたか、2)これらの交渉過程で、官製の住民組織と住民運動組織、地元NGOがそれぞれどのような役割を果たしたか、3)実験の影響にたいする政府補償の支払い、土地なし層への補償がどう進められたか、3)対立・紛争や補償に関し、公式・非公式の司法制度の活用や、その成果はあったか、5)そもそも災害が生じた湿地の利用や管理、水没期の共有資源としての利用がどのようなルールおよび歴史的経緯で遂行されてきたか。 以上のような項目についての調査成果を踏まえた学会報告と最終成果のとりまとめを実現するには、どうしても遅れた分の時間が不足すると見込まれ、やむをえない対応策として、上記理由を根拠とする研究期間の1年延長を申請したい。春期休暇期間に万が一、現地の条件悪化で調査が実施不可となった場合も考えると、1年延長による予備期間の確保がいっそう必要となる。来年度には新規科目の担当にも慣れてくると思われるので、少しでも多く時間を研究に回復し取り組む方針である。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由は、上記のとおり、課題設定の見直し作業が1年目から2年目にずれ込んだため、現地調査が計画通りに実施できなかったことによる。こうした遅れもあって、ノートパソコン(Windows2007)の買い替えや電子書籍リーダーの購入にも踏み切らなかった。 今年度はこれら調査旅費や電子機器購入費、調査に関わる人件費などに予算を執行する計画であり、加えて、論文原稿の英訳サービスにも、まとまった額の助成金使用を計画している。 なお、現地調査を実施する際には、申請書に記載していなかった項目として、現地で使用できる携帯電話を国内か現地で購入する必要もあると見込まれ、可能であれば、これへの支出も加える予定である。
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