2021 Fiscal Year Research-status Report
グローバル経済下の開発途上国農村の開発・発展と社会運動の役割
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17K04173
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
大倉 三和 立命館大学, 国際関係学部, 非常勤講師 (30425011)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 社会運動 / 順応的アプローチ / 資源環境管理 / 農村開発 / 持続可能な開発 / 在来知 / 開発援助 / バングラデシュ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、開発途上国の社会運動が、農村の持続可能な開発に果たす役割の検討を目的とする。これまでの研究から、開発途上諸国における公共政策の領域で広まる順応アプローチについて、特に資源環境管理を中心に検討するとともに、そこでの社会運動など集合行動の位置づけと、それに対して事例研究から提起できる課題の検討を重ねてきた。この一年で新たに得られた知見は、次の2点に整理できる。 1) 順応アプローチの文脈における社会運動の理論的位置づけ: 順応アプローチは、政策・計画の対象をシステムとして包括的に捉え、システム成員自らが問題を検出・翻訳し、フィードバック制御によってシステムを変化する自己組織化過程に依拠して、実効的・持続可能な変化の達成を促そうとする手法である。その自己組織化過程には、検出される課題をめぐって通常以上の密度や広がりを持った相互行為という意味で何らかの集合行為が生起する蓋然性が高く、そうした集合行為をつうじて共有・形成される知は、外部専門家とは異なる固有の情報や対応策を示しうる。多くの途上国で制度的な情報共有の機会が縮小するなか、こうした集合行為で内発的に形成・共有される情報や対応策は、最少多様度の源泉として位置づけ、それを包括的に理解する意義と必要性がある。 2) 自然環境管理の順応的アプローチにかかわる実践上の課題: モニタリングをつうじた短期的・継続的な資源管理の計画・手法の修正とその反復が強調される一方で、その過程に要する膨大な経費や労力、また実験で生じうる物理的損害の補償問題など、社会システム内に派生する諸課題が、従来の研究では殆ど検討されていない。補償は調査地での取り組みを途絶させていた問題でもあることから、資源環境の順応的管理を推進するうえでは、社会的保護の土台形成に含めるなどによるリスク管理の制度化が、持続可能性と人間の安全保障の観点からも不可欠といえる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
1)オンライン授業の改善: 2020年度、特に前期中のコロナ対応は極めて応急的なレベルにとどまっていたため、2021年度には新たに、より推奨されている方法でのオンライン授業やハイブリッド形式で対応に改善していく作業に時間を要した。 2)授業担当科目の変更: 申請段階において慣れてきていた科目の担当が減った一方で、新たに担当することになった科目の一つでは、政府職員が殆どである留学生を対象に英語での授業運営が求められるため、言語・内容の両面で授業準備の時間を大幅に増やさざるを得なかった。 以上から、研究には授業期間を挟んだ短い期間しか確保できず、非効率が重なったため、目に見える進捗につなげることができなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
殆ど実施できずにおわった2021年度の計画内容を大枠で踏襲するが、現実の政策環境と調査地の状況に照らした妥当性を高めるため、以下のように若干の修正を加えて実施する。 (1)理論的枠組みとして、開発や資源環境管理の領域で広がりつつある様々な順応的アプローチを概観したうえで、特に水資源管理について近年まで推進されていた統合的水資源管理(IWRM)に対して、新たに順応的水管理ないしガバナンスが要求されている背景と課題を整理し、順応アプローチの導入がIWRMによる水ガバナンスの現状において持ちうる意義と検討課題を確認する。 (2)事例研究として、バングラデシュ南西部でこれまでに実施した調査をもとに、クルナ・ジェソール地域の湛水問題をめぐり、地域住民の運動として展開されてきた順応的な水資源環境管理の実態を明らかにする。 特に、運動が発生した条件と運動組織の構造、試行錯誤(実験・観察・修正)と多元的な交渉・相互行為の展開過程、そして補償問題をふくむ制度面で見た運動の帰結について分析し、順応的管理の先行研究において検討されていない住民の集合行動の役割と、補償問題を中心に、政策上の課題を明らかにする。 (3)以上の2点を総合して英訳し、これまでの調査で協力を得ていた現地組織に送付・還元するとともに、環境社会学会への論文投稿を目指す。
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Causes of Carryover |
申請段階で予定しており、コロナ禍の影響で延期していたバングラデシュでの追跡調査が、2021年度も実施できなかったことによる。 2022年度においても現地調査の実施は困難と見込まれるため、これまでの研究をまとめる報告書の英訳を業者に委託する際の費用とする計画である。 また、現在使用するノートパソコンのメモリが不足し、オフィスの新バージョンへの更新ができない問題や、オンラインで実施する遠隔会議が不安定であるという問題があるため、可能であれば、デスクトップ型のパソコンの購入にもあてたいと考えている。
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