2019 Fiscal Year Research-status Report
多民族社会における自助/共助の研究―在日ミャンマー少数民族(カチン/モン)の比較
Project/Area Number |
17K04176
|
Research Institution | Research Institute for Humanity and Nature |
Principal Investigator |
宗田 勝也 総合地球環境学研究所, 研究基盤国際センター, 研究員 (80771766)
|
Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
|
Keywords | ミャンマー少数民族 / 難民認定制度 / 日本語教育 / グループ・ダイナミックス |
Outline of Annual Research Achievements |
人口減少下、労働力不足に直面し外国人受入れが喫緊の政策課題になった日本では、2018年に出入国管理及び難民認定法を改正した。これまでに以上に外国人に門戸を開くこととした。越境してくる移民の増加は移民コミュニティをモザイク状に形成し、地域社会と軋轢を生む可能性がある。従前の移民社会研究は「多文化共生」を課題に掲げ、実際は<日本社会vs.個々の移民コミュニティ>研究であった。 本研究では、在日ミャンマー少数民族の事例研究を通し、既往研究を補完する。すなわち、在日ミャンマー少数民族の間に、1)就労、居住、子育て等をめぐる協働、及び日本社会とのネットワーク形成に濃淡があるのはなぜか、2)それぞれの少数民族が獲得した在日経験知を共有する「ミャンマーネットワーク」づくりが進展しているが、そこで構築される多民族共生はどのようなものか――の解明を通し、内なる国際化――多民族社会を複眼的に研究することを目指している。 具体的には日本で暮らすカチンのコミュニティ及び、本国ミャンマーのカチンとの関係性の変容と、モンだけでなく在日ミャンマー少数民族のネットワーク組織の自助活動を参与観察した。 平成29年度は、在日ミャンマー少数民族がみずから運営する成人に向けた日本語教室及び、子どもたちに向けたミャンマー語教室について参与観察を進めた。平成30年度は、在日カチンコミュニティ及び、ミャンマーへ海外調査に行き、現地の状況と日本国内のカチンコミュニティとの関係性について調査を進めた。令和元年度は、それらの研究成果を合わせ、カチン、モンを中心に、就労、居住、子育て等をめぐるコミュニティの構造及び、リーダーの役割を明らかにした。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成29年度は、在日カチンコミュニティ(Kachin National Organization Japan)、NPO 法人PEACE(理事長、理事)、在日カチンの人々、日本語学校、日本語講師、難民支援団体などにヒアリングを実施した。また、NPO法人PEACEが実施する日本語教室受講者と、ミャンマー語教室受講者の家族及び、日本語教室とミャンマー語教室の運営に関わるボランティアを対象にアンケート調査を行った。こうした調査によって、ミャンマー少数民族の自助・共助のあり方について次年度以降の研究を進める上での資料を収集した。とりわけNPO法人PEACEの教育事業が、受講者のエンパワーメントだけでなく、法人自体の連帯を強めている点、また教育事業を入り口にしたソーシャルワークの提供など民族内の自助・共助のあり方が分かった。文献に関しては、とりわけミャンマーの第二次世界大戦以降に着目するとともに、カチンの歴史に関して読み込みを進めた。 平成30年度は、平成31年3月に10日間(ミャンマー・ヤンゴン、ミッチーナ)でヒアリングを実施した。またカチンの歴史に関する文献を読み込んだ。2019年4月に開催されたモンのナショナルデーに参加するなどし、ヒアリングを実施した。 令和元年度は、上記の調査をあわせ、論文では「世界」2019年12月号において、日本社会で暮らす難民申請者の問題とともにコミュニティの役割を論じた。また学会発表では、国際ボランティア学会第21回大会、日本ソーシャル・イノベーション大会第1回大会において研究成果を報告するとともに、今後の研究に示唆を得た。さらに国際ボランティア学会より、2018年度に投稿した論文「声を伝える活動がもたらす新たな活動主体形成のプロセス-難民問題専門情報番組『難民ナウ!』を事例に」(山口洋典立命館大学教授)の学術的成果が評価され、隅谷三喜男賞を受賞した。
|
Strategy for Future Research Activity |
ミャンマーは100を超える民族が共生する多民族国家である。主要な少数民族の中にも言語の異なる少数グループが多数、存在する。宗教も異なる場合がある。そのような状況の中で、民族、国家についての考察は、日本社会が今後、移民を受入れ、多様な文化的背景を持つ人たちとの共生を進める上で重要な示唆を与えることが分かった。今後は、他のミャンマー少数民族の日本における定住のプロセスや、その中での戦略などについて調査を進め、全体像を明らかにしていきたい。とりわけ教育を柱に第2世代、第3世代をも射程にした長期的な調査を進めていくことが重要であると考えている。その上で、民族内/間の協働と日本社会とのつながりに関する成功要因と課題を分析するとともに、他民族への援用の可能性と限界を明らかにしたい。
|
Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染症の拡大により、一部ヒアリング調査が実施できなかったため、繰り越し申請を行い認められたことによる。
|
Research Products
(6 results)