2017 Fiscal Year Research-status Report
韓国における家事・介護労働者の労働実態と組織化に関する研究
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17K04182
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Research Institution | Kwansei Gakuin University |
Principal Investigator |
横田 伸子 関西学院大学, 社会学部, 教授 (60274148)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | ジェンダーの視点 / ケアワーカー / 非正規雇用 / ケアの社会化 / 社会的包摂 / 労働・社会・女性政策 |
Outline of Annual Research Achievements |
1990年代以降、グローバリゼーションが急速に進展したことによって、世界規模で激しいメガコンペティションが展開され、この競争に勝つため労働の規制緩和政策が大々的に取られた結果、非正規雇用が全世界的に増大した。一方、これとともに女性の労働力化や社会の少子・高齢化が顕著に進む韓国では、「ケアの社会化」が促進され、ケアサービス労働に従事するケアワーカーが多く生まれたが、これらのケアワーカーの圧倒的多数は女性非正規労働者によって占められている。本研究は、韓国のケアワーカーの中でも、家事労働者と介護労働者に焦点を当て、ジェンダーの視点からその労働実態や生活実態、さらに労働者の組織化の仕方を明らかにしようとするものである。 ところで、韓国では、朴槿恵大統領の弾劾・罷免にともない、2017年5月に文在寅政権が発足した。そこで、本研究では、朴政権から文政権への政権移行にともない労働・社会・女性政策がどのように変わり、その結果、労働市場の構造がどのように変わったのか、あるいは変わりつつあるのかの分析から研究をスタートさせた。具体的には、新政権の労働・社会・女性政策の立案・企画に強い影響力を及ぼす研究者、官僚にインタビューを行い、さらに、前政権と新政権の政策報告書や資料・労働統計を渉猟し、比較分析を行った。この結果、新自由主義的な傾向の強い前政権に対し、新政権は労働者保護、とくに女性や若年就労者の法や制度への社会的包摂を目指していることが明らかとなった。 これに加え、韓国の女性労働NPOの活動家に対するインタビュー調査を、2017年9月に実施した。同時に、これらの労働NPOと政府系及び民間労働研究所が共同で行った調査研究の結果を入手し、インタビュー調査の結果と併せて詳細に分析している最中である。この作業を通じて、韓国の女性ケアワーカーの生活や労働及び組織化の実態を浮き彫りにすることができよう。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
韓国の政権が朴槿恵政権から文在寅政権へと突然変わったせいで、新政権の労働・社会・女性政策の分析と考察が必要になったが、むしろ、新自由主義的な前政権と、社会的格差を是正し福祉国家を目指す現政権との対照性が鮮やかになり、非常に興味深い調査及び分析結果が得られた。こうした政策転換によって、女性や若年就労者などの社会的脆弱階層の社会的包摂を目指す現政権の政策の方向性が明らかになった。 一方、女性労働NPO団体へのインタビュー調査を通して、労働法や社会保障制度、労働組合の保護に包摂されにくい女性非正規労働者が大部分を占める女性ケアワーカーの実態が浮き彫りになった。とくに、女性労働NPO団体と政府系及び民間労働研究所が共同で行った調査報告書を入手できたため、これらの分析を通して、韓国の介護・家事労働者といった女性ケアワーカーの生活・労働実態を浮き彫りにすることが大いに期待できる。また、これらを通して得られる知見は、2018年度に実施予定の女性ケアワーカーに対するインタビュー調査や設問調査の質問設計を行うのに大きな助けとなるだろう。 加えて、韓国における社会的企業や労働者協同組合との人間関係を構築することができたことで、それらが女性ケアワーカーをいかに組織化し、地域社会に包摂しようとしているかについての調査の段取りができた。 したがって、現在までの研究課題の進捗状況は、おおむね順調に予定通り進んでいると言ってよい。
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Strategy for Future Research Activity |
2017年度の研究で得られた知見をもとに、2018年度以降の研究を鋭意推進していきたい。まず、2017年度同様、2018年度も文在寅政権の労働・社会・女性政策に着目し、文政権が何に焦点を定め、いかなる方向性を持っているかを見定める。 ただし、2018年度の研究の重点は次の三つである。一つ目は、韓国の女性ケアワーカー、すなわち家事・介護労働者に関する文献資料を、学術文献に限ることなく、新聞やルポ、労働者の手記に至るまで幅広く、かつ歴史を遡って、収集・渉猟し、ケアワークを韓国の女性の職業史の中で歴史的に意味づけることである。 二つ目として、上記と関連して、女性ケアワーカーの生活や労働実態をより鮮明にするために、家事労働者及び介護労働者に対して、それぞれ200サンプル程度を取って設問調査を実施する。この際、労働NPO及び政府系及び民間の労働研究所の助力と助言を得るつもりである。 三つ目は、韓国の社会的企業及び労働者協同組合に関する文献資料を広く収集するとともに、実際に女性ケアワーカーを組織化し、介護事業や家庭管理士協会の事業を展開している社会的企業及び労働者協同組合を訪ね、インタビュー調査及び参与観察を行うことである。同時に、日本において介護事業を展開する労働者協同組合との比較を通して、両国の労働者協同組合の共通点や違いを浮き彫りにし、これらの活動のどこに隘路が存在し、どのような問題点を抱えているかを明らかにしたい。
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Causes of Carryover |
研究課題に関連する書籍を購入するつもりであったが、当該書籍の発行が遅れたため、2017年度中に購入することができず次年度使用額が生じた。今年度、当該書籍を購入する予定である。
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Research Products
(4 results)