2019 Fiscal Year Research-status Report
韓国における家事・介護労働者の労働実態と組織化に関する研究
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17K04182
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Research Institution | Kwansei Gakuin University |
Principal Investigator |
横田 伸子 関西学院大学, 社会学部, 教授 (60274148)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | ケアワーカー / 女性非正規労働者 / 文在寅政権の労働改革 / 非正規職の正規職転換 / 特殊雇用労働者 / 日韓『働き方改革』フォーラム |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、1990年代のグローバリゼーションの進展とともに増大した非正規労働者、中でも女性が圧倒的多数を占める韓国のケアワーカー、特に家事労働者と介護・看病労働者に焦点を当て、労働実態や、生活実態、労働者の組織化の方法を明らかにしようとした。 2019年度は昨年に引き続き、2017年に「労働尊重」を公約に発足した文在寅政権の社会政策及び労働政策、特に女性政策の分析を行い、労働市場の最周辺部に位置する女性非正規労働者の労働基本権の確立にどれだけ寄与したかを考察した。この際、日本の安倍政権の「働き方改革」との比較を通して、韓国の女性非正規労働者の現状を客観的に浮かび上がらせようとした。すなわち、日本の安倍政権の「働き方改革」は多くの問題をはらみ、特に長時間労働の追認・悪化や雇用の不安定化など、新自由主義的性格が露わになった。これに対し、韓国では、労働組合や市民運動が主体的に自らの立場を主張し、労働者の基本権を守る運動や、福祉国家構築を目指す政策論議を強力に推し進めてきた。この動きに応じて文在寅政権は、最低賃金大幅引き上げ、非正規職の正規職転換、長時間労働の是正など、画期的な労働政策を進めた。この結果、女性賃金労働者の過半数を占める非正規労働者の多くが公共部門を中心に無期契約職化を勝ち取ったが、男性正規職労働者との処遇格差は依然として大きい。何よりも、独立請負業者としての性格が強く、労働法や社会保障制度の保護から排除された「特殊雇用労働者」が大部分を占めるケアワーカーにはその恩恵が行き渡っていないことが改めて明らかにされ、特殊雇用労働者の新たな運動モデルの確立が模索されている。 こうした労働改革の日韓比較について、本研究の集大成として、日韓の労働問題研究者や活動家、実務家、市民、労働者を一堂に集めて、2019年12月14日に龍谷大学で「日韓『働き方改革』フォーラム」を開催した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、2019年度を最終年度として、韓国のケアワーカーに関する政府統計のraw dataや調査報告書といった文献資料を十分に渉猟し、それらを詳細に分析した。同時に、ケアワーカー協同組合及び、非正規女性労働者を組織する韓国女性労働者会と女性労働組合において、活動家や労働者に対するインタビュー調査及び参与観察を行うことができた。この結果、韓国のケアワーカーの就労実態や組織化の方法を明らかにすることができ、その成果を学術論文にまとめ、2020年中に本の1章として出版予定である。 他方、もう一つの研究計画である文在寅政権の社会政策、労働政策、中でも女性政策の分析と考察を、これらの政策を立案、企画する複数のキーパーソンや、労働組合や市民運動の活動家に対するインタビュー調査や設問調査を通して行った。これによって、一定の限界を持ちながらも、女性非正規労働者や若年労働者などの「社会的脆弱階層」の労働基本権を守ろうとする政策が政権内で模索されていることがわかった。さらに、こうした政策に強力に影響を与えたのが、企業別労働組合運動を超えた、新しい労働運動モデルと考えられる個人加盟ユニオンや社会的協同組合運動であることが実証された。 そこで、本研究成果を社会に公表するべく、研究の集大成として、2019年12月14日に京都 龍谷大学で、韓国の労働改革に直接関わる研究者や政策担当者、実務家、労働組合運動の活動家を日本に招請し、日韓比較の視点から『日韓「働き方改革」フォーラム』を開催した。当日は、約150人もの日韓の市民や労働者、実務家、研究者が一堂に会し、韓国と日本の労働改革の成果や問題点について活発に議論が行われた。こうして、本研究は予想以上の研究成果を上げ、それを社会に還元できたことから、おおむね順調に進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は、本来、2019年度を最終年度としていた。しかし、2019年12月14日に開催された「日韓『働き方改革』フォーラム」の社会的反響が大きかったため、ここで発表された報告を中心に、『日韓『働き方改革』の実態と問題点』というテーマで研究成果を出版することになった。 韓国側の報告を論文として書き直してもらい、それを日本語に翻訳する。さらに、日本側の報告もまた、論文として一貫性あるものに整除し、韓国側論文と合わせて一冊の本にまとめる。その際、フォーラムではできなかった、両国の労働改革の比較分析についての結論を今後のあるべき労働改革の提言としてまとめる。この本は、2020年9月を目途に関西学院大学出版会より出版予定である。
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Causes of Carryover |
本研究の集大成として、2019年12月14日に開催された「日韓『働き方改革』フォーラム」で発表された報告を中心に、『日韓『働き方改革』の実態と問題点』というテーマで研究成果を出版するための出版費用が必要なため次年度使用とした。
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Research Products
(2 results)