2018 Fiscal Year Research-status Report
Research on the Family Home System in Japan: Building the New Child Welfare System
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17K04186
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
園井 ゆり 広島大学, 総合科学研究科, 准教授 (40380646)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | ファミリーホーム制度 / 社会的養護 / 児童福祉 / パーマネンシー理念 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、ファミリーホーム(以降FHと記す)制度発展のための効果的実践方策を、FHの養育者における意識的要因と、FH制度に関する制度的要因において分析することである。今年度は制度的要因課題に関する分析をFHの養育者に対して実施した調査(以降本調査と記す)に基づき行い、次の2点の傾向を確認した。 1)今年度実施した本調査における委託児童(n=79)の傾向については委託児童の平均年齢は11.1歳、53.2%の児童に発達障害等の障害があり、きょうだい児を委託するホームは14ホーム中11ホームであった。ここから、FH制度は特に①高年齢児、②障害児童、③きょうだい児の養育を行う制度として機能している点が指摘できる。 2) FHの養育者は児童の養育に際し、経済的支援、人的支援をはじめ多様な支援を必要とすることが確認できた。経済的支援については、FHには高齢児が委託されることから、児童の学校生活関係費(通学費、部活動費、交際費等)に対する更なる経済支援のほか、特に進学希望の委託児童に対する長期的経済支援制度(18歳後の委託満了後も利用可能な制度で、大学入学金、授業料等を援助する)が不可欠である。人的支援については、補助者制度の一層の拡充である。一案として、FH人材登録制度を提案したい。これは補助者を必要とするFHと、補助者としての勤務希望者で、要保護児童の養育経験者とが人材登録する制度である。これにより、FHの養育者が、養育経験豊富な補助者を探すことが可能になる。 今年度実施した本調査の概要について。①調査対象FHは14ホーム(個人型10ホーム、法人型4ホーム)、②調査対象者は主としてFHの専業の養育者、③委託児童総数は79人、1ホームあたりの平均委託児童数は約5.6人、④調査地域は、札幌市、北海道、和歌山県である。調査遂行においては、日本社会学会が定める倫理綱領を遵守し実施した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在までの本研究の達成度としては、おおむね順調に進んでいる。今年度はFH制度発展のための効果的方策を「制度的要因」の観点から分析し、以下3点の結論を得た。 1)FH制度は高年齢児、障害児など養育が極めて困難な児童が養育される傾向にある。法人型FHに委託されている要保護児童は法人本体からの支援が可能であり(例えば養育者が所属する法人のスタッフが必要に応じて養育者の養育を支援する等)、より養育困難な児童が委託される傾向にあることが確認できた。 2)FHの養育者は児童の養育に際し、様々な支援を必要とする。例えば、レスパイト・ケア等、養育者の一時的な休息のための援助制度や、障害等を持つ児童の養育に関する専門的知識を得るための研修制度等である。レスパイト・ケアについては、本調査からは、FHの養育者は、一時的に児童の養育から離れ休息する制度を必要としていることが確認できた。現在、FH制度のもとでは補助者がいるという点で、レスパイト・ケアを利用することができない(里親制度のもとでは利用可能)。しかし、たとえ補助者がいる場合においても、補助者に児童の養育における全責任を負わせることは難しく、FH制度においても養育者の養育負担軽減のための休息援助制度の整備が急務である。また、研修制度については、FH制度に委託される児童は高年齢児、障害児の傾向にあることから、児童の養育に関する専門的知識が不可欠である点が指摘できる。 3)家庭養護体系(養子制度、里親制度、FH制度から構成)におけるFH制度の位置づけを要保護児童の委託順という観点からとらえると、実親家庭復帰の見込みのない児童の処遇については、養子縁組が可能であれば養子縁組を行うことが望ましく、それが難しい場合は、児童の年齢に応じて里親制度(特に低年齢児を委託)ないしFH制度(特に高年齢児を委託)を活用することが望ましいことが指摘できる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究についてもおおむね研究計画通り進める。次年度は研究最終年度としてこれまでの研究成果の総括を次の2つの観点から行う。第一に、FH制度発展のための効果的方策を、養育者に対する本調査結果に基づき意識的、制度的側面から提言する。第二に、これまでの研究成果をもとに、児童に対し安定的、継続的な養育者及び養育環境を保障するパーマネンシー理念を提示し、本理念に基づき、家庭養護を前提とした児童福祉体系を構築する。その上で、本体系下にFH制度を位置づけ、その機能を示す。 第一の点については、本研究ではFH制度発展のための効果的実践方策を、FHの養育者における意識的要因とFH制度に関する制度的要因において調査に基づき分析した。前者の分析からは、FHの養育者は、養育者になった動機が、a)要保護児童の福祉増進のため、という道徳的使命感に基づくことが示され、そのような使命感を持つ養育者においては、b)高年齢児や障害児の養育について理解が深く、c)養育者と補助者とのFHにおける役割を把握しており、FH制度を、要保護児童の社会化、という家族機能を遂行する制度として理解していることが明らかになった。しかし一方、d)委託児童数が多く、養育負担が少なからずあることが指摘できる。後者の分析からは、上述したd)の課題を克服するため、e)養育者ないし委託児童に対する、委託終了後も含めた経済援助等の支援制度を拡充する必要があることが確認できた。 第二の点については要保護児童の養護目標として永続的、安定的な家族を児童に保障しようとするパーマネンシー理念を日本の児童福祉の理念的基盤として提唱する。この理念に基づき家庭養護を前提とした児童福祉体系を構築し、本体系下におけるFH制度の位置づけを明確にする。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由について、今年度はFH調査を重点的に展開したが、FHの対象地域が広範囲に及ぶこと、調査項目もFHの設置運営状況、養育者の状況、児童の状況、補助者の状況等幅広いことから調査旅程計画の設定上、調査実施数が限られたものになった。このため、次年度以降も引き続き調査実施のための費用を必要とするため、旅費の一部及び謝金を次年度以降に繰り越す。次年度は、FHの事業所数が全国的にみても比較的多い傾向にある九州・沖縄地域を中心にFHの養育者を対象にした調査を継続予定である。また、聞き取り調査実施後の調査データの書き起こしのための費用を必要とする。さらに、CASA制度(研修を受けた市民ボランティアが要保護児童や養育者の相談役を務める米国における制度で、養育者に対する支援制度の一環として位置づけられる)関連資料の収集のため、アメリカ社会学会参加を予定しており、そのための費用を必要とする。 次年度繰り越し分の使用計画については、次年度の研究計画に従い使用する予定である。繰り越した旅費及び謝金を用いて、引き続きFH養育者に対する聞き取り調査を行うほか、聞き取り調査実施後は音声データの書き起こしを行う予定である。また、分析結果に関する国内外の学会参加、発表ならびに論文投稿費等に充当する。
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