2019 Fiscal Year Research-status Report
Research on the Family Home System in Japan: Building the New Child Welfare System
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17K04186
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
園井 ゆり 広島大学, 総合科学研究科, 准教授 (40380646)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | ファミリーホーム制度 / 社会的養護 / 児童福祉 / パーマネンシー理念 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、家庭養護の一環であるファミリーホーム(以降FHと記す)制度発展のための効果的実践方策を、FHの養育者における意識的側面と、FH制度における側面において分析することである。今年度は、次の2点の分析を行った。第1に、これまでの研究を総括しFH制度発展のための提言を行った。第2に、要保護児童の福祉増進を目的とするパーマネンシー理念に基づく児童福祉体系を構築し、3つの家庭養護――里親、養子、FH――制度間の機能的連関及び本体系下におけるFH制度の位置づけを示した。 第1点めについて、意識的側面の分析からは、特に養育者を新規開拓する際は、養育者の動機が、要保護児童の福祉増進のためという道徳的使命感に基づく場合を重点的に開拓することが有効である。更に、FH制度における養育者と補助者の役割を明確に区別し認識する養育者は、FH制度を要保護児童の社会化を遂行する制度として理解していた。従って、このような認識を持つ養育者の開拓も有効である。制度的側面の分析からは、FH制度は特に高年齢児、障害児童、きょうだい児の養育を行う制度として機能しており、FHの養育者は、児童の養育に際して特に経済面、人的面で支援を必要とすることが明らかになった。従って、経済的支援については、学校生活関連費や、進学希望の児童に対する長期的経済支援制度を拡充し、人的支援については、FH人材登録データベース制度を構築する等、補助者制度拡充する。 第2点めについて、パーマネンシー理念を日本の児童福祉の理念的基盤として提唱し、本理念が今後の児童福祉施策の根幹として位置づけられ得ることを示した。その上で本理念に基づく児童福祉体系を次のように構築した。要保護児童の措置は、養子制度を最優先とし、縁組の可能性がない児童に対しては、里親制度(特に低年齢児の場合)ないしFH制度(特に高年齢児、障害児の場合)を活用する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在までの本研究の達成度としては、おおむね順調に進んでいる。今年度は、前2年間の研究成果を受けFH制度発展のための分析と提言を行った。最終的に要保護児童の福祉増進を目的とするパーマネンシー理念を提起した上で、家庭養護を中心とする児童福祉体系を構築し、本体系下にFH制度を位置づけた。 FH制度発展のための提言について、次のことが明らかになった。FHの養育者における意識的側面の分析からは、特にFH養育者の新規開拓については、養育者の動機が要保護児童の福祉増進のためという道徳的使命感に基づく場合を重点的に開拓することが有効である。FH制度に関する分析からは、FHに対する更なる経済的及び人的支援を拡充することが有効である。 パーマネンシー理念に基づく児童福祉体系下におけるFH制度の位置づけについては次の通りである。本児童福祉体系下では、家庭復帰の見込みのない要保護児童の措置は養子制度を最優先する。3つの家庭養護(里親、養子、FH)制度の中で、養子制度のみが児童に対して養親との法的親子関係を保障するからである。縁組の可能性がない児童に対しては、低年齢児については里親制度を、高年齢児や障害児についてはFH制度を活用する。従って、本児童福祉体系下においてFH制度は、特に(縁組の可能性のない)高年齢児や障害児の養育を行う上で有効な制度として位置づけられる。 これまで実施した本調査の概要について。①調査対象FHは25ホーム(個人型20ホーム、法人型5ホーム)、②調査対象者は主としてFHの専業の養育者、③委託児童総数は122人(うち約半数の児童に障害がある)、1ホームあたりの平均委託児童数は約4.9人、委託児の平均年齢は約11.8歳、④調査地域は、札幌市、北海道、和歌山県、長崎県、佐賀県である。調査遂行においては、日本社会学会が定める倫理綱領を遵守し実施した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究についても研究計画通り進める。FH制度の実証研究過程で、特に18歳到達後の児童に対する継続的自立支援をいかに行うかが大きな課題となっていることが明らかになった。即ち、要保護児童はFHを含めた家庭養護措置の場合においても、或いは児童養護施設等の施設養護措置の場合においても、18歳到達後は措置解除となり自立をしなければならない。特に自立生活能力が十分備わっていない児童の場合においても、18歳到達後は原則として自立を余儀なくされるため、措置解除後の児童に対する自立に至るまでの継続的な支援制度の構築が現在大きな課題となっている。 そこで、今後はこれまでのFH 制度に関する研究内容をふまえ、自立援助ホーム(Supported Lodgings)(以下、SL)制度に着目し、本制度の発展に向けた効果的実践方策を分析する予定である。SL制度とは、1997年に児童自立生活援助事業として法定化された制度であり、主に社会的養護の措置を解除された18歳以降の自立支援を目的とする制度である。SL制度は、先述した通り、措置解除後の児童の自立支援を目的として創設された制度であるが、2017年時点でのSL数は154カ所(入居児童数は573人)にとどまり、18歳以降の児童に対する効果的支援制度としては十分機能しているとは言い難い状況である。実際、要保護児童に占める18歳以上児童数は近年急増傾向(2008年は1802人であったが、2017年は6494人となっている)にあるが、これらの児童に対する自立支援体制は十分とは言えない。 従って、これまでのFH制度に関する研究内容をふまえたうえで、今後はSL制度が十分発展しない要因は何か、社会的養護体系下におけるSL制度の機能及び位置づけは何か、という問いを提起し、これをSLの養育者およびSLに入居している児童に対する実証研究を通して解明する予定である。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由については主に次の2点がある。第1に、研究過程で、FHが特に18歳の措置解除後の児童の社会的自立に対して重要な役割を果たすことが解明されたことである。具体的には、18歳の児童を養育中のFHの中には、社会的養護自立支援事業を活用することにより、18歳以降も引き続き養育を継続し、児童の自立を支援する事例がみられた。そこで、本研究課題で構築予定の児童福祉体系をより精緻化するため、18歳到達後の児童を引き続き養育中のFHに対する追加調査の実施及び関連資料の追加収集が必要になった。第2に、新型コロナウィルスの影響により、令和元年度内に実施予定であった国内外の調査について延期せざるを得ない事態が発生したことである。以上の理由から、旅費、謝金、備品費の一部を次年度以降に繰り越し、追加調査及び実施予定であった調査を実施する。加えて、次年度中にアメリカ社会学会誌へ論文を投稿予定であり、その費用を必要とする。 次年度繰り越し分の使用計画については、次年度の研究計画に従い使用する予定である。繰り越した旅費及び謝金を用いて、引き続きFH養育者に対する聞き取り調査を行うほか、聞き取り調査実施後は音声データの書き起こしを行う予定である。また、分析結果に関する国内外の学会参加、発表ならびに論文投稿費等に充当する。
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