2018 Fiscal Year Research-status Report
少年教護院における処遇困難児への特別な処遇と院外教護の実態
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17K04202
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Research Institution | Wakayama University |
Principal Investigator |
山崎 由可里 和歌山大学, 教育学部, 教授 (60322210)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 少年教護院 / 少年教護院実施要項 / 国立武蔵野学院 / 少年教護法 / 児童鑑別機関 / 入院可否規準 |
Outline of Annual Research Achievements |
2018年度は、2017年度に収集した資料(厚生省児童課『少年教護院調査要項』への各少年教護院からの回答など)をもとに、(1)少年教護院入所可否の規準、(2)入院不可の場合の具体的な処遇について整理・分析した。 (1)について、1.環境改善の必要がある者2.非精神病者 3.非伝染病者4.非身体障害者5.知能指数75以上6.「精神薄弱」の程度軽度の者7.教化性が認められる者8.「白痴」であっても教護の可能なる者9.「変質」傾向の無い者10.14才以下の者11.鑑別機関の決定による者 が入所の規準であった。また、1.家庭の善導により自宅教護を期待し得る者、2.少年教護委員の教護により教護の目的を達成しうる見込みある者、3.伝染病者等で長期治療を要する者、4.身体虚弱にして集団生活に困難ある者、5.7才以下で集団的生活に困難ある者、6.「精神薄弱」で教護困難と認められる者、7.知能指数による規準では74以下、60以下、50以下に大別され、8.「性格異常」の著しき者、9.精神病者若しくは脳炎後遺症、てんかんの甚だしい者、10.満15才以上の者、11.親権者無理解の場合、12.悪友多数有る者、13.満員の場合、14.予算不十分等で収容困難な場合などが入院不可の規準であった。 (2)については、1.特殊施設に収容(精神病院、治療教育所、「精神薄弱者」保護所、国立少年教護院(武蔵野学院)、少年審判所送致、警察署の教護留置を活用など)2.保護者、少年教護委員、篤志家等に教護委託(家庭での教護、少年教護委員の観察・保護、小学校長、市町村長等の保護、施設保護団体の保護、教護に理解ある篤志家に保護を委託、教護院の後援団体に保護を委託など)、3.年長者の場合就労を提案、などであった。これら全体の傾向とともにA少年教護院の資料をもとに具体的な事例を挙げて検討し、学会発表および論文執筆に取り組んだ。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初の計画では、(1)少年教護院入所可否の規準、(2)入院不可の場合の具体的な処遇に加え、(3)少年教護院内での学級編成および特別学級開設など「精神薄弱」児童・「性格異常」児童への対応、(4)少年教護院における「精神薄弱」児童への具体的な教育指導事例の検討などをすすめる予定であった。 しかしながら、関連する新たな資料を渉猟したことに加え、『少年教護院調査要項』回答の判読・整理に当初の予想以上の時間を要したためである。結果的に、研究成果としては、(1)(2)の成果を学会発表(国際学会、国内学会各1回)および論文投稿(英文査読誌)となった。
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Strategy for Future Research Activity |
第一に、「研究業績の概要」で示した(3)(4)については、新たに渉猟した資料も含め、今年度も引き続き資料の整理・分析をすすめ、学術雑誌への論文投稿を行う。その際、従来の研究計画の遂行が滞らないように、先述の論文投稿はできるだけ早い時期に行う。 第二に、今年度の中心的な研究課題として、「少年教護院入所不可と鑑別された児童の実態とその後の処遇の解明」に取り組む。具体的には、1.地方の少年教護院から国立武蔵野学院へ措置された事例検討、2.八事少年寮・藤倉学園など障害児施設施設に受け入れられた不良・非行傾向のある障害児の実態解明、である。分析の資料としては、各施設刊行・所蔵資料などの他、『児童保護』などの雑誌掲載記事、設立者杉田直樹、川田貞次郎などの著作・論文の分析をすすめる。 八事少年寮を設立した杉田直樹(名古屋帝大医学部教授・精神科)は、文部省派遣留学生として、第一次世界大戦前後に欧州およびアメリカ留学の経験をもつ。ドイツからの帰国後、杉田は、ドイツに存在して日本に無い感化保護事業として「医師が関与する感化保護事業」を挙げ、「わが国でも医師が関与する感化保護事業を実現したい」と述べていた。八事少年寮入所児童には、家庭委託の者のほか、少年教護院(愛知学園)入所不可の者も含まれていた。そのため、杉田が欧米留学で感化保護事業について具体的に見聞した内容も含め検討する。また、アメリカ留学で障害者保護施設で働きゴッダードの研究所で杉田と出会い研究に従事した川田貞次郎(藤倉学園創設者)も、小田原感化院で知的障害のある入所児童に出会い彼らの教育指導に取り組んだ経験をもつ。藤倉学園が少年保護団体であったことにも着目し、「精神薄弱」あるいは「性格異常」などと判断され少年教護院入所不可となった者、あるいはそれらの退院後の受け入れ先の事例として検討する予定である。
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Causes of Carryover |
「次年度使用額」が生じたのは、家族の介護のため予定していた資料調査のいくつかを取りやめたためである。2018年度実施できなかった調査を行い、「次年度使用額」相当額程度を充てる。
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Research Products
(3 results)