2018 Fiscal Year Research-status Report
日本における公的年金制度の役割―創設の意義からの検討―
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17K04216
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Research Institution | Aichi Prefectural University |
Principal Investigator |
中尾 友紀 愛知県立大学, 教育福祉学部, 准教授 (00410481)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 勤労者厚生保険 / 労働者年金保険 / 国民養老保険 / 失業保険 / 国策研究会 / 国民労務調整基金 |
Outline of Annual Research Achievements |
2018年度は、原文が見つかっていないために、これまでに内容が明らかにされてこなかった、労働者年金保険制度の最初の草案である「勤労者厚生保険制度要綱草案」の内容を明らかにすることができた。 分析対象とした資料は、労働者年金保険制度の創設を指揮した保険院総務局企画課長の川村秀文が所属した、民間の政策研究機関である国策研究会第四研究委員会に設置された戦時労務対策委員会に関わる資料である。具体的には、国策研究会による会報である『国策研究会会報』及び『新国策』、『戦時労務対策委員会の審議経過に関する中間報告』等の各種報告書で、そこから、保険院総務局企画課による「養老、廃疾、遺族保険」案及び「勤労者厚生保険」案に関わる資料を抽出し、総力戦体制確立の動向に照らして分析した。 それによって、第一に、国策研究会の戦時労務対策委員会は、物資動員計画に伴う転・失業問題を背景に、ナチス・ドイツの生産的な失業対策の影響を受け、社会保険を財源に中小商工業の「労働生産性の向上」を図ることを目指していたこと、第二に、そこで検討されたのが、社会保険をファンドとして再編し、中小商工業に投資するとした「国民労務調整基金案」だったこと、第三に、川村による「勤労者厚生保険」案の提案は、この「国民労務調整基金案」への抗弁だったことが明らかとなった。 さらには、第一に、「勤労者厚生保険」案に包括された失業保険には、「社会安定の重要方策」として戦後の大量解雇に備えること、それを危惧して現在の雇用を控える事業主の不安の解消を図り、雇用を促進させることが期待されていたこと、第二に、積立金には、「福利事業」を含む生産的な労務対策の「資金計画」であることが検討されていたことを分析できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2018年度中に、2017年度の遅れを取り戻し、一般労働者を対象とした公的年金制度の最初の草案である「勤労者厚生保険制度要綱草案」の内容を明らかにできた。さらに、それをかなり精緻に実施できたために、2019年度に計画していた研究の一部を前倒しして実施できた。ただし、2018年度に実施予定だった強制被保険者等の規定の検討は先送りしたために、当初の計画以上に進展しているわけではない。おおむね順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
2019年度は、分析対象を、1939年7月に「勤労者厚生保険制度要綱草案」として起草された公的年金が、1940年9月に「労働者年金保険制度案要綱」として立案されるまでの過程として研究を進める。「勤労者厚生保険」案は、物資動員計画を背景に生産的な失業対策が必要とされ、急遽提案された養老・廃疾・遺族保険に失業保険を包括した保険案だったが、結局は、失業保険を外して「労働者年金保険」となった。つまり、被保険者の範囲を「勤労者」から「労働者」に、保険の種類を「厚生保険」、すなわち養老・廃疾・遺族・失業保険から、「年金保険」、すなわち養老・廃疾・遺族保険にしているが、それはなぜだったのかを検討したい。
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Causes of Carryover |
2018年度は、それ以前に収集した資料を用いて分析を進めたために、新たな文献複写代及び文献購入費用がかからなかったことで、次年度使用額が生じた。 2019年度は、これまでの研究成果を学会報告する。それまでに研究会を何度か重ねるために、助成金の多くは旅費として使用する予定である。
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